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「デューク様」
私がデューク様の前に現れた途端、彼の目が大きく見開くのが分かった。
じっと見つめた後、デューク様は片手で顔を覆う。
あ、デューク様の服装がメルビン国のものになっている。いつもと違うデューク様の雰囲気に鼓動が速くなる。
顔が良い人って何でも似合うのね……。
デューク様は手を顔から外し、私を穴があくほど見つめた。
「どうかしました?」
「めちゃくちゃ可愛い。その恰好よく似合っている」
さっきまでの反応はそういうこと!?
私は褒められた瞬間、一気に顔が赤くなるのが分かった。こんなにも直接的に褒められると、どう反応すればいいのか分からなくなる。
「あ、ありがとうございます」
もっと余裕のある感じで言いたいのに、今の私にはこれが精一杯だ。
デューク様は私の反応に微笑み、ゆっくりと手を差し伸べた。私は胸のドキドキを必死に抑えながら、デューク様の手を取った。
そして、今、……………………どうして私は、デューク様と腕を絡めているのだろう。
「これはなんですか?」
王宮の周りをデューク様と歩きながら、私は口にした。
「今朝、祖父にアリシアとの関係を聞かれて『めちゃくちゃラブラブだ』と伝えたから、それを実行しているだけだ」
「……けど、なんか、凄く近くないですか?」
「そりゃ、ラブラブだからな」
どうしてデューク様はこれほどまで余裕そうなのかしら……。私だけが緊張してるみたいじゃない……。
アリシア、デューク様の勢いに負けちゃだめよ。
「だからと言ってこんな風に歩かなくても……」
「みんなにアリシアは俺の女だということを証明しておいた方がいいだろ? ……嫌か?」
「嫌じゃないですけど……」
私はそう答えながら、デューク様の言っている意味を考えた。
…………デューク様は離宮が良い場所でないことを知っているのかもしれない。私が「デューク様の愛する女」であることが知れ渡れば、離宮の中で過ごしやすくなると考えたのだろう。
離宮には男性が入ることが許されない。
これはデューク様なりの私を守る方法なのかもしれないわね。
そう思うと、心が満たされ、思わず笑みがこぼれた。
「デューク様、離宮はそう悪くないところです」
毒を盛られたり、敵視されたり、そんなことどうでもよくなるぐらいデューク様がこうして私のことを想ってくれているのが嬉しかった。
「元気に過ごせそうですわ」
私がそう付け足すと、デューク様は少し驚いた表情をした後、「流石だな」とすぐに顔を綻ばせた。
そして、私たちは少しの間王宮を散歩した後、デューク様が本題に入った。
「祖父がこちら側に歩み寄ってくれない限り、両国の関係の溝を修復するのは不可能だ」




