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「お前は後で私の部屋に来い」
ミアの顔の横でローザは何か呟いたが、聞こえなかった。
そして、私の存在など最初からいなかったかのように私たちの隣を侍女たちと共に通り過ぎて行った。 ……私に対しての嫌悪が半端ない。
私はミアに「彼女になんか言われた?」と聞くと、ミアは首を横に振った。
やっぱり、教えてくれないわよね~~。
私は再び足を進めて歩き始めた。身支度を整えた女性たちがちらほらと部屋の外から出てくる。私のことを汚らわしいものを見るような目で見る。
ああ、悪女っぽい~~~!! この久しぶりの悪女ムーブ!! 逃すわけにはいかないわ!
私はにやけるのを我慢しながら、堂々と足を進めた。
「堪えていないんですね」
ミアが不思議そうに私を見る。
「……堪える?」
「アリシア様からすれば、ここは居心地の悪い場所でしょう? こんな重圧の中いるなんて苦しくなりませんか?」
こんなの重圧とは言えない。
学園でリズさん信者たちに散々見られてきた。喜んで向けられていた冷たい視線だもの。なんとも思わない。それに、私はこんなところより、もっと修羅場をくぐり抜けてきている。
死と隣り合わせだった今までの出来事に比べたら、随分と可愛いものだ。
むしろ、こういう女のねちっこい感じの方が苦手なのかもしれない……。
「楽しいじゃない」
私はニコッとミアに微笑んだ。
「……デューク様はまた変わったご令嬢を好きになられたんですね」
ミアは理解出来ないという表情を浮かべながらそう呟いた。
そういえば、デューク様は今何をしているのかしら。
「ミア!」
デューク様を考えた瞬間だった。
後ろから侍女らしき女性が私たちの方へと走ってくる。
「そんなに急いでどうしたの?」
ミアが落ち着いた様子で急いでいる侍女に向かって尋ねる。彼女は呼吸を整えながら口を開いた。
「そのお嬢様にデューク様が用があるって、離宮の外で待っていて……」
なんてタイムリー。丁度デューク様のことを考えていると登場した。
「アリシア様をデューク様のとこまで案内して。私は少し用事があるの」
「は、はい」
ミアは侍女に私のことを任せた。
用事って、もしかしてさっきのローザ様のことかしら……。そうでなければいいけど……。
私はそんなことを思いながら、こちらです、という侍女の後をついて行った。




