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ミアは私の質問に険しい表情をうかべ、一呼吸置いた後、口を開いた。
「……アメリア様のお部屋の担当をしておりました」
「そう」
アメリア様をよく知っているような口ぶりだったのはそういうこと……。
ナシェと同じような立場ってことよね? ……そういえば、毒を入れたのはナシェなのかしら。それとも何も知らずに食事を運んできた?
「私の食事に毒を入れた犯人の目星はある?」
「ナシェではないでしょうね。……他は容疑者が多過ぎて思い当たりません」
毒が入っていたことが公になれば、ナシェの命は終わる。……誰かがナシェを使って私に忠告した。
「忠告に従う私じゃないもの。犯人を特定してやるわ」
「……問題は起こさないでくださいよ」
「問題を起こしてきたのはそっちでしょ」
「それはそうですけど……。国際問題にまで深刻化して、戦争になってしまうのは勘弁です」
「それは私も勘弁だわ」
「折角アメリア様が守ろうとしたものを壊されてはたまりませんので」
「……壊す?」
ミアが言っていることが良く分からず、私は首を傾げる。ミアはハッとしたように「いえ、なにも」と付け足した。
…………絶対怪しい。
けれど、言及したところで、ミアは答えてくれなさそうだ。
私たちが歩いていると、前から煌びやかなインディゴブルーの色の服に包まれた貫禄のある女性が歩いてきた。長いストレートの茶髪に、前髪はセンター分けされており、額が出ている。色気のある雰囲気がここからでも伝わった。
昨日、ここの広場で出会った女性たちよりも、圧倒的に違うオーラを放っている。隣には侍女たちを連れている。
「第二夫人のローザ様です」
ミアが私に耳打ちをしてくれた。
やっぱり、と心の中で納得しながら、私はこっちへと向かってくる彼女の方をじっと見ていた。
鶯色の瞳と目が合う。オリエンタルな香りがここまで来ていた。
ミアが私の隣でローザに向かって頭を下げている。郷に入っては郷に従おう。私も頭を小さく下げた。
「この小童がデュルキス国から来た者か」
小童…………、確かにこの色気ムンムンお姉さんからしたら私なんて小童に見えてしまうのかもしれない。
私は顔を上げて自己紹介をしようとしたその瞬間だった。
彼女は私を冷淡な目つきで睨んだ。その瞬間、背筋に悪寒が走った。
「誰が顔を上げて良いと言った」
……なにこの圧。
ミアが更に頭を下げて謝る。
「申し訳ございません。アリシア様はメルビン国に着いたばかりで、まだ離宮のルールを把握しておらず……、私がこれからお伝えするところでした」
特に焦った様子もなくそう言えるのは、慣れているからだろう。
「アリシア、というか。……お前のことミアに免じて許してやろう」
蔑んだ視線を私に向けながらローザはそう言った。




