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私は隣にミアを連れて、部屋を出た。
解毒剤のおかげか、キイの毒耐性のおかげか随分と体が軽い。
かなり豪華な内装だこと……。にしても、随分と複雑な造りにしていて、まるで迷路ね。
私は歩きながら、離宮の地図を脳内で作っていく。
「ミア、国王には何人の妻がいるの?」
「二人、いえ、三人いました」
「そのうちの一人がデューク様に殺されたと」
私がそう言うと、ミアは声を落として「はい」と頷く。
暫く沈黙が続いた後、ミアは説明をしてくれた。私が知りたがっているのを察したのだろう。
「メルビン国の一夫多妻制は妻がみな平等な扱いを受けるわけではないのです。王妃は別格、お気に入りがいれば贔屓をする、そんな世界です」
「……にしては国王は随分と妻が少ないのね」
「女性に対しての優先度があまり高い方ではないので……。どちらかというと陛下は子煩悩で……、特に姫君たちに対しての愛は凄かったですね。アメリア様のことがあって以来、少し落ち着きましたけど」
落ち着いたというよりは、未だに立ち直っていないのかもしれない。
……けど、昨日のデューク様との会話ではどちらかというと妻を庇っている感じがあったのよね。子煩悩なら、娘が殺されたりなんてしたら、妻であろうが誰であろうが極刑にしそうなもの……。
「妻なのに侍女になる可能性はあるものなの?」
ずっと疑問に持っていたことを口にした。
デューク様から色々と聞こうと思っていたけれど、予想外の展開でこの離宮に味方ができてしまった。
「……正妃でなければ、姫君の侍女として仕える可能性だって充分あります。メルビン国の女階級としては、正妃、姫君、そして第二夫人と続いています。そして、正妃と姫君たち以外の者たちはどれだけ位が上がろうとも、些細な粗相などで王宮から追放されます。そういう者達は王宮を出ても、居場所がなく人生を終えてしまうことも多いですが……。国王陛下の慈悲によって『侍女』として働くことになったり……、ですが肩書は変わりません。第三夫人は第三夫人のまま」
随分と面白い王権制度ね……。
淡々と説明してくれるミアに私は更に質問を続けた。
「デューク様に殺されたのは第三夫人よね?」
「はい。それに、第三夫人であったルビア様の血族は根絶やしにされてしまいました」
「……え?」
私は突然の新事実に脳がパンクしてしまいそうになった。
まって、話が見えそうで見えてこない。アリシア、落ち着いて頭を回転させるのよ。
「姫君も王子もみんな処刑です。オーヴェン国王は愛娘の殺害をルビア様だけの死では決して許しませんでした」
……すごい、権力フル活用すぎるわ。その一件を聞いただけで子煩悩国王であったことが良く分かる。
メルビン国の姫君でありデュルキス国では王妃であった人物を殺したことを考えると、それぐらいのことはされてしかるべきかもしれない。
当の本人以外に罪はないといえども、戦争が起こる事案だもの。被害は最小限に抑えられたのかもしれない。……それにしても、シーカー国王もよく戦争を起こさなかったわね。……まぁ、あの国王様は戦争を起こすタイプではなさそうね。
う~~~ん、けど、やっぱりどこか納得ができないような気もするけど……。
「まぁ、でも元々悪い噂ばかりの一族でしたので……。人を蹴落として、騙して、成り上がった貴族ですので、特に誰も助けようとはしませんでしたね。……むしろアメリア様殺害の償いを皆が求めていました。一族もろとも殲滅だ、と」
ミアはこんなにも冷静に話しているけれど、当時の状況は想像できないほどすさまじかったのだろう。
そして、ミアの話からは第三夫人ルビアに対しての憎悪がちょくちょく垣間見れた。
「ミアはアメリア様と関りはあったの?」




