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私の言葉にキイは露骨に嫌な表情を浮かべた。
『ちょっと、まだ王宮にいるのならそれぐらいのことしてくれてもいいじゃない』
『……そんな私を便利屋みたいに使わないでよ。こう見えても、伝説の妖精なのよ?』
『じゃあ、私の部隊に入るっていうのはどう? フェニックスって言う』
『え、ダサい』
キイはまたさらに眉間に皺を寄せる。
……そんなに!?
てか、ヴィクターに最強部隊作るって約束したのに、この約束はどうなるのかしら……。まぁ、けどヴィクターが王子ってことは変わらないし、約束したことだから、最後までやりきらないとね!
約束は約束、王位継承権は王位継承権、全く別の問題だもの。
『勝手に一人の世界に入らないでくれる?』
『あら、失礼。……それで入る気になった?』
私の圧にキイは顔を引きつる。
『勧誘というよりも強制入隊じゃない。部隊に入ってる妖精なんて聞いたことないわよ』
『だから良いんんじゃない。聞いたことないのなら、その先駆者に貴女がなればいいわ。……私はね、自分がほしいものは本気で手に入れる性分なの』
私はキイの目を真っ直ぐ見つめながら、ゆっくりと笑みを浮かべた。
『……はあぁぁぁあぁぁ』
キイはどこか諦めた様子で長い溜息をつき、話を続けた。
『分かったわよ!! けど、私は気まぐれ隊員よ! いたりいなかったりすることに文句を言わないで! ……はぁ、本当に信じられない。私が部隊に入るなんてこんなの前代未聞よ』
まだボソボソと文句を言っているが、私は『やった~~~!』とその場で大きな声を出した。
夢の中なら、どれだけ声を出したって、迷惑にはならない。……キイ以外には。
キイは私の声がうるさかったのか、耳を塞いでいる。
『たまにしか夢に現れないから、それも』
『ええ、大丈夫よ』
私はビッグスマイルをキイに向ける。
『そ、そう。ならいいわ。…………あ、あと、アリシアの体に入っている毒の耐性を作っておいてあげたわよ。これでこの毒はどれだけ飲んでも死なないようになったから。……いわば、妖精の加護みたいな……ってちょっと!? 何その不細工な顔!?』
なんて素晴らしいの……!?
私は感激のあまり泣きそうになってしまう。普段どれだけ嫌がらせをされても泣かないのに、こういうのに弱い。
涙を必死に抑えながら、私は言葉を発した。
『キイ、貴女、天使なの?』
『妖精だけど』
『神じゃない』
『だから妖精って』
私はキイの話を遮って、小さな彼女をそっと傷つけないように抱きしめた。
『いつも優しさをありがとう、キイ』
『相変わらず変な子ね。…………人間に抱きしめられるのは初めてだわ』
突然のことにキイは固まっていたが、どこか恥ずかしそうに小声でそう言った。




