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いや、それでもあり得ないわよ。
だって少し前まで私に王の隣は興味ないか、みたいな感じのスタンスだったじゃない。…………いや、待って。王になってもならなくても、そんなの関係なく、隣に来い、って言ってた気が……。
『嘘でしょ、それがどうして、王位継承権放棄に繋がるのよ』
私はブツブツと独り言のようにそう言った。
『アリシア、やっぱり何か知ってるんでしょ! 言いなさいよ!』
『正式に公表されたの!?』
『……この子、私のこと完全に無視するじゃない。…………はぁ。もういいわ。公表はまだよ。ただ、突然私の元へやって来て、閉じ込めて悪かった、なんて言って解放するんだもの。それで理由を聞いたら、もう王座に興味はなくなった~、なんて言い始めてびっくりよ』
『……私もびっくりよ』
キイを解放した?
命を賭けてまであんなに必死で捕まえたのに?
ヴィクター、一体どうしちゃったのよ……。ということは王になるのはヴィアン? いや、けど、なんか……、私が思っていた王位の継ぎ方とは違う。ヴィクターがそんなあっさり手放すわけ……。
も~~~! どういうこと~~! 私がラヴァール国を離れてすぐにそんなことが起きるなんて!
私はその場で頭を抱えた。
『絶対、原因はアリシアにあると思うのよね~~』
『ヴィクターは私の言葉で揺らぐような意思の持ち主じゃないわよ』
それは自信を持って言えた。
確かに、あの日の夜のヴィクターは少し様子がおかしかったけど、私がヴィクターの提案を蹴ったからって、彼が王位継承権への執着がなくなるとは思えない。
『それもそうだけど……。だって、急すぎない!? おかしいじゃないそんなの!』
『そりゃ、おかしいけど……、どのみちヴィアンかヴィクターのどっちかが継ぐのだから、揉め事なく決定するのなら良い気もするけど』
『そんなの逆に怖いわよ』
『……キイは今どこにいるの?』
『解放されたはいいけど、この王位継承権の問題が気になってまだ王宮に住み着いているのよね。……あ、しかもデュルキス国から男の子がやって来たのよね。もうラヴァール国どうなるの!? って大変なんだから』
『その男の子はラヴァール国に危害を与えるわけじゃないから、安心して』
問題は王位継承権……。私もこの話しの続き、気になってしょうがない。
メルビン国でこれから牢獄のような日々を送るのなら、もう少しラヴァール国に滞在しておけば良かったわ……。
『ねぇ、キイ』
私はキイに顔を近付けて彼女をじっと見つめた。
キイは私の迫力に驚いてか、『な、なに』と若干引いた様子で口を開く。
『ラヴァール国がどうなっているか色々と教えてくれないかしら?』




