666 十六歳 アリシア
私は解毒剤を飲んだ後、すぐに眠りについた。
事を大きくしないでほしい、ここだけの秘密にしてほしい、とミアに頼みながら寝てしまった。
ミアの「分かりましたので、今はもう寝て下さい」という落ち着いた声が最後に耳に残った。
『アリシア! アリシアってば!』
透き通ったその声に私は周りを見渡す。
……夢の中だわ。
『キイ?』
また意識の中に入り込まれたんだわ。てか、妖精ってすごいわね。洗脳しようと思えばし放題なんじゃ……。
『そんなことしないわよ』
突然目の前にキイが姿を現した。小さな姿は相変わらず可愛らしい。
キイは私を強く睨みながら、叱った。
『魔力がなくなったり、今度は毒にやられたり……、もっと自分を大切にしなさい!』
『こんなの不慮の事故よ。……それで今度はどうしたの? キイ様』
『気付けばラヴァール国からいなくなっているんだもの。そりゃびっくりするでしょ。しかもデュルキス国に帰ったわけじゃなさそうだし……』
『……色々あるの』
『色々ってなに! こっちも色々大変なんだから!』
キイは体を使って私に怒りの態度を示す。けど、動きが可愛くて少しも怖くはない。
『てか、キイほどの妖精がまだヴィクターに捕まえられたままなの?』
私はふと疑問に思っていたことを口にした。
キイは口をあんぐりと開けて、呆れた表情を浮かべる。
『いつだって出れるわよ。私はアリシアの力に圧倒されただけだもの』
『じゃあ、どうして』
『ラヴァール国の王位継承問題の最後を見届けようかと思って……。そう! それが大変なの! アリシア、貴女なにかヴィクターに言った?』
『なにも言って……』
そう言えば、告白されたような……。けど、あれは告白というよりもパートナーになれっていうビジネス的な勧誘に近いし……。
けど、あれで何か変わるようなヴィクターでもないわよね。
『何も言ってないわよ』
『何か言ったんでしょ』
私は改めて笑みを浮かべて、堂々とそう言ったが、キイは訝し気に私を見つめながらすかさず返答した。
『何か言ったとして、それがどうしたのよ』
『……彼、王位継承権を放棄するつもりよ』
『なんですって!?』
私は思わず大きな口を開けてしまった。
普段ならこんな品のない驚き方なんてしないのに、これは不可抗力だ。
あんなに王座にこだわっていたヴィクターが王位継承権を放棄するですって……?
だって、キイを捕獲したのも王になるためだったでしょ……?
私は目を見開いたままキイを見つめた。キイも私を見つめ返しながら、本当なのよ、と言いたげに小さく頷いていた。




