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「君がデュルキス国から来た少年だね」
僕は壁一面ガラス張りで縦に長く続く部屋へと案内されて、跪いていた。
ラヴァール国の国王がどんな人なのかを誰からも聞いたことがなかったが、すごく穏やかな口調だった。
……あの王子の父親だから、もっと威圧的なのかと思った。
「顔を上げよ」
僕は国王の言葉に従う。
目の前にいたのはシーカー国王と同じぐらいの年齢の柔らかな雰囲気を纏った男性だった。
金髪は肩よりも少し長く、ハーフアップにしている。優しそうな目元……、一瞬だけじっちゃんに見えてしまった。
「これほど幼き少年が斑点病の治療薬を……」
国王が喋る度にふわふわの髭が揺れる。彼の隣にいるのは、宰相だろうか。小太りで強面だが、仕事はできそうだ。
ほっとする空気感を作ってくれているだけで、国王の貫禄はやはりすごい。未だに緊張は解れない。
「君の国は若き活躍者が沢山いるのだな」
そう言って国王は笑った。
アリシアのことを言っているのだとすぐに分かった。
……国王はアリシアのことを知っているのか?
アリシアはラヴァール国の国王とは面識がなかったはず。アリシアの口からラヴァール国の国王について話を聞いたことなどない。
けど、彼の耳にアリシアの情報が入らないわけがない。知っていて、黙って様子を見ている可能性が高い。
僕は色々と考えながら、「光栄です」と頭をもう一度下げた。
そうして、僕はラヴァール国王との謁見を終えた。
最後に、期待しているよ、とだけ言われた。応援にも捉えられるし、圧をかけているようにも捉えられるような言い方だった。
僕は執事の後ろを歩き、ラヴァール国で過ごす部屋へと案内してもらう。
ホッと、安堵のため息をついた。とりあえず、第一関門クリアだ。
国王に対しての失礼なく、無事にラヴァール国ライフがスタートだ!
そう思うと、急に食欲がわいてきた。ようやく落ち着くことができたのだと実感する。
「ジル様、今日のところはお休みになられて、明日またお伺いいたします。スケジュールのことなど含めて」
部屋の前に到着して、執事はそう言った。
僕は「は、はい」と頷く。……慣れない。他国の執事が僕に敬語を使ってるなんて……。
戸惑う僕に執事は優しかった。微笑みながら、名を名乗ってくれた。
「私はリアムと申します。あとで食事をお運びいたしますね。嫌いな食べ物などはありますでしょうか?」
「いえ、と、特にありません」
「そうですか。それは良かったです。では、また明日。失礼いたします」
執事はそう言って、僕に綺麗にお辞儀をしてくれた。僕もつられてお辞儀をする。
……やっぱり慣れないなぁ。
僕はまたそう思いながら、部屋へと入った。




