662 十二歳 ジル
ラヴァール国の城へついてすぐに国王への謁見があった。
馬車から下りて、デュルキス国とはまた少し違った雰囲気の城を見渡す。似ている個所もあるが、やっぱり違う。
壮厳な建物だぁと感心していると、一人の男性がやって来た。眼鏡をかけた年老いた執事だ。
「こっちです」
僕の幼さに少し驚きながらも、彼は城の中へと案内してくれた。
……ここ、アリシアも通ったのかな。
高い天井に大理石の廊下。ラヴァール国が大国と言われている理由が分かる。
さっきから心臓の音が鳴り止まない。ここに来る途中にアリシアを見たおかげで、少しは落ち着いたけど、それでも緊張しっぱなしだ。
僕一人でこんなところに来るなんて……。
とんでもないことが起こっているんだ、と再認識する。執事が僕に対して丁寧な態度を取っていることにもぞかしさを覚えるのももちろんのこと、僕はデュルキス国を背負ってここに来ている。
「お前、一人で来たのか?」
その威圧的な声に僕はビクッと体を震わし、足を止めた。
こんなところでビビっちゃだめだ。案内をしてくれた執事も足を止める。
「ヴィクター様」
……ヴィクター様? この国の王子? アリシアが言っていた気がする。
気性が荒いけど、悪い人ではない第二王子がいるって……。確かになんか攻撃的な感じはする。
僕は「そうです」とはっきりと答えた。
ヴィクターは眉をひそめて、僕を見る。……正直、怖い。けど、ここで怯えて後退ったりしてはダメだ。
「こういうのは誰か連れてくるもんじゃないのか?」
こんな子どもが一人で、と言われているような気がした。
僕自身が誰も大人をつけないでほしいと国王に頼んだ。子どもだと思ってなめられたくないという気持ちが強かったからだ。
貧困村出身の僕が一人でここまでのぼりつめたのだと、世界に証明したかった。実績を残さなければならないんだ。
「……なんか、あいつと似た者同士なんだな。同じ目をしてる」
あいつ、はきっとアリシアのことだろう。
ヴィクターはフッと笑みを浮かべて、去って行った。
「謁見なんて気楽に行けよ」
…………確かに悪い人ではないのかも。……雰囲気が怖いだけで。
「行きましょうか」
「はい」
僕はそう言って、執事の後を歩いた。




