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見慣れない天井を眺めながら、私はメルビン国に来たことを思い出した。
昨夜のことを思い出す。私が自己紹介をした瞬間に場の空気は悪くなった。
離宮の女性たちとトラブルが起こる前に、私はミアにこの客人用の一人部屋へと案内された。彼女からは「くれぐれも問題は起こさないでください」と念を押された。
問題は私だって起こしたくない。今までの経験上、大体問題に巻き込まれることが多いのよね。
それにしても、デュルキス国と言うワードだけで、ここまで嫌悪を抱かれるなんてある意味すごいと思う。だって、どう考えても、私たちがメルビン国に対して嫌悪を抱くべきじゃない?
デューク様のお母様が殺されて……、というかその侍女もメルビン国の王の妻なんだったっけ。
それが未だに分からないポイントだわ。
そういえば、昨日ミアがこの離宮には第二夫人までいると言っていた。……第三夫人がデューク様に殺されたってこと?
う~~ん、やっぱり分からない! 折角離宮にいるのだもの、聞くのが一番よ!
とりあえず、着替えようと私は棚に置いてあるドレスへと目を向けた。
……この国の衣裳だわ。私が着用したことのないタイプのドレス。
ビーズや刺繍で煌めいているブラックのドレスを手に取り、着替えた。ちゃんと上質なものだということがすぐに分かった。
布を切り刻まれているような嫌がらせは覚悟していたけれど、ドレスにはなんの細工もされていなかった。
柔らかな生地が私の体を優しく包む。風に靡くととても美しいと思いながら、私は髪を櫛でとかす。
「意外と伸びてきたわね」
私はキャロルの前でショートカットにした日を懐かしんだ。
あの頃はまさかメルビン国へ行くなんて思いもしなかった。すっかりグローバルアリシアになっているわね。
私は櫛を机に置き、部屋を出た。
勝手に外を出て良いのか分からないけれど、行動しない者には何も起こらない。
アメリア様についてメルビン国側の意見を聞いてみたい。
部屋を出ると、ちょうどミアが私の部屋の前に立っていた。彼女と目が合い、「あ」と私は声を出してしまう。
「何をしているのですか?」
「ちょっと、外の空気を吸いに」
「勝手に外に出るのはご遠慮下さい。ご飯は朝、昼、晩と運びますので」
まるで牢獄ね。
ミアは冷たい口調のまま「お部屋にお戻りください」と発した。
「散歩すらも許されないの?」
「はい。勝手に離宮を歩き回るのはやめていただきたいので」
私は彼女の言われるままに一度部屋に戻った。




