655
その笑い声に私は恐怖を覚えた。
こういう状況で笑う人間は大体怒っているんだもの。
国王は突然笑いを止めて、私たちを物凄い形相で睨んだ。その視線に私は思わず鳥肌が立った。
……なんて迫力。
「……何をふざけたことを言っておる。お前がこの国の侍女を殺めたのだろう」
「この国に私の母は殺されました」
ああ、最悪の空気だわ。
もう良好な関係を築こうの会ではなくなった。次回、帰国する! ってパターン!?
「あの件を掘り返しにきたわけではありません」
デューク様がそう付け足す。
そう攻撃的にならないことが大切!
私は心の中で相槌を打ちながら、この緊迫した空気を自分の中で少しでも和らげることにした。
「手紙もなしに、いきなり訪問とは随分と丁寧な交渉だな」
「前に手紙を送りましたが、返答が届かなかったもので」
「それが答えだ」
本当に祖父と孫なのよね?
なにこの今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気。祖父と孫ってもっと温かい関係じゃないの? おじいちゃ~ん、孫~~! って言いながら抱き合うものなんじゃないの!?
……色んなご家庭があるから、とやかく口出しはできない。
黙ってこの喧嘩を見守るしかない。実況でもしておこうかしら……。
「てっきり承諾してくれたのかと」
デューク様! ここでビジネススマイル! この笑みは心は笑っていない時の笑みです!
「わざわざ返信する義理もないだろう」
おっと、ここで国王もビジネススマイルを浮かべます! 血の繋がりをここで感じさせます!
「メルビン国はそんな無礼を働くような国ではないかと思いまして……。それを直接確かめに来たんです」
「デュルキス国は無許可で王宮に入り込もうとするマナーの知らない王子がいるようだな」
「ご自分の孫をずっと憎く思っているようですけれど、愛娘の敵を討ったと捉えてくれないのですね?」
「……お前が殺した侍女は俺の妻のうちの一人だ」
両者一歩も譲りません!! …………って、え?
急な展開に一瞬思考が飛んだ。
今、なんておっしゃったの? 妻の一人……?
一夫多妻制なのはなんとなく耳にしていたから知っていたけれど、妻が侍女? どういうこと?
「それがどうしたというのですか? 先に仕掛けたのはそちらですよ」
……もう、わけが分からない。珍しいことに私の脳処理じゃ追いつかないみたい。
あとでデューク様にじっくりと聞くしかないわね……。




