654
「……それで、私に何の用だ?」
私たちは正座をした状態で目の前に威厳を持って座っている国王から圧をかけられている。
そう、ちゃんと見つかった。
普通に王宮に入ろうとしたら、使用人に見つかり、そこから衛兵に捕獲された。デューク様は抵抗することなく「国王に会わせろ」と強い口調でそれだけ言った。
背筋が凍りつくような視線を衛兵に向けていた。衛兵は身震いしてデューク様から思わず手を離すというすごい光景を目の当たりにしてしまった。
……強者の貫禄が半端なかったわ。その場に冷えた空気が流れたもの。……デューク様の魔力のせいかもしれないけど。
騒がしい様子を見に来た侍女たちの中にデューク様を知っている人がいた。
そして、今に至る。
意外とあっさり捕まり、意外とあっさり国王への謁見を許された。
もはや、デューク様、最初からこれが狙いだったでしょ? と言いたいぐらい。
またデューク様の計画の上で踊らされたような気がするわ。なんだか悔しいもの。……たしかに城の敷地内に入ってしまえば、デューク様を知る者は必ずいるはずだもの。
そりゃ騒ぎを起こすなら、城外じゃなくて城内よね。
私は今更デューク様の行動に納得しながら、目の前の国王へと目を向ける。
白い短髪に白い髭、デューク様よりも数倍濃い褐色肌。年齢は私のおじい様ぐらいかしら……。かなり老けているが、顔が整っていることは分かる。
気難しく怖いおじいちゃんって感じだわ。……この方がデューク様の祖父に当たるかたなのよね?
確かに言われてみれば、少し似ている気が……。
私がまじまじ見ていると、メルビン国王から鋭い視線を向けられる。
デューク様は知っていても、隣にいる私は初対面だもの。「この小娘は誰だ?」と不審に思うに決まっている。
「単刀直入に言います。もう一度、デュルキス国との外交を再考していただけませんでしょうか?」
単刀直入すぎない!?
私は思わず勢いよくデューク様の方を向きそうになったが、グッと堪えた。
ダメよアリシア、ここは衝動で動いちゃだめ。ちゃんとデューク様の意思を尊重して、それに合わせないと。
デューク様の言葉を聞いた瞬間、少しの間、この場は静寂に包まれた。
周りにいた従者や衛兵たちも驚いているようだった。若干ざわつき始めている。
突然現れて、いきなり何を言いだすかと思えば、外交だと? ってなるわよね。今、完全にメルビン国王の気持ちを再現できたと思うわ。
私はそんなことを思いながら、国王の方へと視線を向けた。
すると、その瞬間、豪快に声を上げて国王は笑った。




