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私たちの城へ乗り込む案は割と馬鹿げているようで現実的だった。
城へ入って行く商人の荷物に紛れるということだ。この方法が一番手っ取り早い。
デューク様は今日城に向かう商売人のスケジュールを把握していた。……隙のない凄い人なんだと改めて実感した。
突撃訪問と言う大胆な行動に出る前に緻密に情報を収集しているあたりが私とは全く違うところだ。
デューク様の隣にいると、無敵になった気持ちになるわ。
そもそもこの街から城まではかなりあるから、歩いて行くなんて無謀だったのよね。
私たちは仕立て屋の近くへと足を運び、中の様子を観察した。
大きな高級店だ。清潔感もあるし、街の中でも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。良い匂いがここまで届いている。
綺麗な人たちが沢山働いているけれど、女性ばっかりね。デューク様曰く、オーナーも女性らしいけれど、どの人なのかしら。
隠れながら、じろじろと店内を覗いているとデューク様が口を開いた。
「あの荷台に生地を積んでいるだろ? あれが多分今日行く馬車だな」
開放された荷台に筒状に綺麗にまかれた様々な生地たちが積まれていく。
当たり前だけど、デュルキス国とは全く違う生地だ。……布にびっしりとビーズや刺繍などが施された煌びやかな布ばかり。
私は荷台のある馬車の後ろに二人乗りの四輪箱馬車を確認した。
そこにさきほど中で働いていた煌びやかな女性一人と、一人だけあからさまに貫禄が違う若い女性が乗っていくのが見えた。
「あの人ってもしかして……」
「オーナーだな」
「かなり若いですね」
彫りが深い綺麗な女性だった。あの年齢でこれほどの店を構えているなんて、彼女のキャリアどうなっているのかしら……。
「あ、馬車が動いた」
二人の女性を乗せた方の馬車が動き始めた。
「今だな」
え、合図それなの!? 急すぎない?
私は唐突に動き出したデューク様について行く。私たちの俊敏な動きにより、誰にもバレないように荷台へと乗り込み、布に囲まれながら身を伏せた。
てか作戦全く聞いてないんですけど!! 荷台に乗り込むだろうとは思っていたけれど、ちゃんと言っておいてよ!
私はデューク様に対して心の中で怒りを漏らしながら、デューク様を睨んだ。
それと同時に馬車がゆっくりと動き始めた。
……まぁ、成功したから良かったわ。




