647 十六歳 アリシア
幸運なことに、ちょうどラヴァール国を出る前にジルを見ることができた。
なんだか泣きそうな顔をしているように見えたけど、ジルなら大丈夫よね……?
私はレオンやリガルたちを信じて、メルビン国を目指した。
ライは私と一緒にいれることが嬉しいのか、いつもよりもスピードを上げて走ってくれた。
意外と遠いわね、メルビン国。
想像の何倍も時間がかかるメルビン国に対して若干の殺意が湧いていた。
もっと気軽に行けると思っていた私が甘かったわ。大誤算。
もう日が暮れかけている。ちょくちょく水分補給の休憩はしているけれど、朝からずっと走りっぱなしだ。
「ライ、休憩する?」
そう聞いても、ライは走り続ける。私を乗せてるのに、少しも疲れを感じさせない。
……すごい体力ね。むしろ。私のお尻が痛くなって休憩したいぐらいだわ。
それから、私とライはほぼ休憩することなく走っていると、遠くにメルビン国とラヴァール国との国境の門が見えてきた。
……あれだわ!! ついにここまで来たわ!!
私は歓喜の声を心の中で上げて、額の汗を拭う。
気温が少し上がったような気がする。この蒸し暑さはデュルキス国やラヴァール国ではあまり感じたことがない。
砂漠がある国なんだもの、そりゃ暑いわよね。……夜はかなり冷えるだろうけど。
門の近くまで来ると人がやはり増えてきた。馬車も結構通っている。みんな何の許可証とかも見せずに行き来できているように見えた。
……このまま無事に通過できますように!!
私はそう願って、門をくぐろうとしたら、ちゃんと門番二人に止められた。
「止まれ」
その言葉に私は素直に従う。
どう見ても、止められてるの私だけじゃない? 褐色肌じゃないから? ……いや、そこが問題ではなさそう。
「このライオンはなんだ……?」
門番の一人が怪訝な目で私をじろじろと見る。
ああ、やっぱりライが原因か。そりゃそうよね、こんな大きなライオンに乗って来るなんて前代未聞に決まっている。
通りでさっきから視線を感じていたわけだわ。
「私、芸者でして、ライオンを使ったパフォーマンスをしているのです」
咄嗟に嘘をつく。
馬鹿正直に「このライオンは私の旅のお供です♡」なんてことは言わない。そんなことを言ったら更に怪しまれるに決まっている。
「……どんなパフォーマンスをするんだ?」
「どこから来た芸者だ?」
褐色肌の二人の門番は私を詰めるように強い圧をかけてそう聞いてくる。
「ラヴァール国から来ました。ライオンに乗って色々な技を披露します」
ギリギリ嘘ではない。
出身地を聞かれたわけではないし、ライの上に乗ってある程度の動きはできる。




