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どうしてメルビン国に呼び出されたのかは見当がつかない。
確か、デューク様のお母様はメルビン国で毒殺されているし、メルビン国とデュルキス国の仲は戦争とまではいかないが最悪なはず。
……デューク様の目的が分からないわ。
私はベッドに仰向けになりながら、そんなことを考えていた。
窓からは心地いい夜風が入ってくる。一時的にラヴァール国の王宮の客室を与えてもらった。……どこの王宮もやっぱり豪華な造りね。
メルビン国は少し異国情緒な場所だと本で見たことがある。前世の記憶でいうアラビアン的な雰囲気。
ラヴァール国とデュルキス国とは全く違う雰囲気なんでしょうね。なんだかワクワクしてきたわ!
コンコンッと突然ノックの音が部屋に響いた。私は起き上がり、扉の方を見る。
こんな夜に一体なんの用かしら。
「俺だ」
その声だけでヴィクターだということが分かった。私はゆっくりとドアを開ける。
「どうかなされましたか?」
ヴィクターと話す時は、まだリアとして彼の下にいた時の感覚が抜けない。
「少し歩かないか?」
「……はい」
私は少し戸惑いながらもそう答えた。二人で会話なんて随分と久しぶりだわ。
上から羽織るものを持って、私は部屋を出た。王宮の庭をぶらぶらと散歩をすることになった。
ひんやりとした夜の空気を吸うと、気持ちが落ち着く。
「お前、俺の元に来ないか?」
「……元に来るとは?」
「風の便りで聞いた話だが、もう令嬢じゃないんだって?」
そんなことまで知ってるのね。流石王子、情報がお早いこと。
「色々あって身分剥奪されまして」
私がそう言うと、ヴィクターはハハッと声を出して笑った。
ヴィクターの笑い方はいつも豪快だ。少しずつ彼との距離を思い出してくる。一国の王子といえども、ヴィクターに対してこんなにかしこまらなくてもいいんだったわ。
「国外追放されたり、身分剥奪されたり、凄いな」
「それでも逞しく生きている方でしょ?」
「お前より逞しく生きている女を知らねえよ」
「それは光栄だわ。……それで、俺の元に来る、ってどういう意味なの?」
「俺が令嬢以上の立場を用意してやる」
「…………つまり、嫁に来い、と?」
私の解釈があっているのか分からなかったが、必死に頭をフル回転してそう返答した。
いや、あのヴィクター様がそんなこと言うはずないわよね? でも、内容はそういうことだし……。
私の勘違い? …………ってわけでもないわよね。俺の元へ来い、と、令嬢以上の立場を用意ってもうヴィクターの嫁に行くことしか考えられないもの。
……てか、なにこの気まずい沈黙!!




