642
「それでね、デュルキス国での私の相棒がこの国に正式にやってくるの」
「その子を支えてほしいと?」
「そういうこと。話が早くて助かるわ」
私はレオンの言葉に頷く。
ジルをひとりぼっちにはできない。親心のようなものかしら。私はこの国で闘技場の出場者という立場からヴィクターの隊に所属したけれど、ジルはそういうタイプじゃないものね。
デュルキス国とラヴァール国の架け橋になるのはすごく名誉あることだけど、それだけプレッシャーもすごいはず。
「その相棒はどんな奴なんだ?」
「ずっと思ってたけど、主に向かってなんだその口のきき方は」
リガルの言葉にレオンがつっかかる。
ああ、やっぱりこの二人って反りが合わないわね……。そこにジルが入ってきて、うまくいくのかしら……。先のことは考えないでおきましょ。うまくやってもらうしかないわ。
私は未来への危惧を一旦忘れることにした。
「ジルという少年よ。年齢の割にかなり大人びて見えるし、大人顔負けの賢さを持ち合わせているわ。斑点病の治療薬の開発に成功して、ここに来ることになったのよ」
「は? まじかよ。治療薬開発って……」
「おおまじよ」
リガルは「すげぇ」と呟き、レオンとリオも驚いている。
この反応を見れるのが嬉しいのよね。ジルが世界に羽ばたく日をこの目で見れないのは残念だけど。
「あなたたちにジルを頼んだわよ」
「……主は母国に戻るんですか?」
「デュルキス国には戻らないの。けど、ラヴァール国を離れなければならない」
「そうですか。ジルという少年のことはお任せください」
レオンは理由を聞いてきたりしない。私の意思にただ従うだけだ。
まさにベスト従者だわ。レオンは私に忠誠を誓ってくれた。私も彼が忠誠を誓い続けれるように常に高みを目指し続けておかないとね。
私たちはその後解散して、小屋の中で私はライと二人きりになった。
ライを撫でながら、ポケットから一つの紙を取り出す。先ほどヴィクターから「お前宛にも手紙が来ていた」と渡された手紙だ。
デューク様からだった。
まさかデューク様から手紙が来ているとは思いもしなかった。なんなら初めてじゃないかしら?
内容はこうだった。
『メルビン国で会おう』
メルビン国……、デューク様のお母様の母国。




