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あのクシャナ親衛隊の七人は率先して、先陣を切って村を復興し始めたらしい。
それにつられて、ヴィアンが森を離れるころには、ほとんどの人たちが村を元に戻すために動き出した。リガルは何故か私について行きたいと言って、この王宮にいるらしい。
本当に心の底から「どうして?」と言いたかったが、とりあえず、ヴィアンの話を最後まで聞くことにした。ちなみに、リガルは今はマリウス隊長のところにいるようだ。
リリバアの葬儀は行われず、シーナが一人で埋葬した。あの事件を起こしたリリバアの話について誰も触れることはなかった。
「ごたごたしたことはこれぐらいにしておいて、結論は、全て丸く収まった、ってとこかしら。あ、あと、また遊びに来てってアリシアに伝えてってシーナが言っていたわ」
そう言い終えた後、ヴィアンの表情は急に真剣になった。私を訝し気に見つめながら、話を続けた。
「一番おかしいのは、みんな『クシャナ』を覚えていないのよ。あの強く気高い女王を忘れることなんてありえないわ。三賢者までもが分からないって。まるでシーナがクシャナになってるのよ? 女王の世代交代は分かるけど、クシャナの記憶がないってどういうこと? …………アリシア、貴女何かしたでしょ?」
嘘でしょ。
私はヴィアンの発言に思わず固まってしまう。
どうして、ヴィアンがクシャナのことを覚えているのよ。おじい様たちの記憶まですり替えているのに、魔法が効いてないの?
もしかして、ラヴァール国の王族って魔法に対する特殊な耐性があったりするのかしら。
「俺はあの女のことはちゃんと覚えてる」
ヴィクターが口を挟む。
そりゃ、ヴィクターはあの場にいなかったもの。
「ヴィヴィアンはクシャナが女王だった記憶があるってこと?」
「もちろん」
「……魔法は使ったわ。クシャナ……シャナの願いだったから」
私はクシャナを新しい名で呼びなおした。
ヴィアンの顔が少し曇る。良くない魔法を使ったのだと思われている。
「どんな願い?」
「自分の記憶を消すことがシャナの願いよ」
「……どうりで。……けど、どうして私の記憶は元のままなの?」
「それが私にも分からないのよ。どうしてヴィヴィアンの記憶はなにも変わってないの?」
「お前ら同じことをラリーし合うな」
ヴィクターのツッコミに、緊迫した空気が緩和された。
記憶を消すなんて! ってヴィアンに言われなくて良かったわ。……彼なら言わないだろうけど。クシャナが決めたことに口出しするタイプじゃなさそうだもの。
「俺らが王族だからじゃねえの?」
「……というのは?」
私はヴィクターの言葉に首を傾げた。




