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「あの方は一体何者ですか?」
レオンが私の方へと近づいてくる。私の隣へと来るライを撫でながら私は「シャナよ」と短く答えた。
何者でもないただのシャナ。
レオンはそれ以上、言及してこなかった。彼のそういうところが好きだわ。
「アリシア、この連中はどうするんだ?」
ヴィアンも私の元へと来て、クシャナ信者たちを指さした。レオンの前だからか、ヴィアンは王子用の口調になる。
私は彼らの方へと視線を向ける。
そういえば、ライネルとリガルは決着が着いたのかしら……。
…………もしかして!!
私はクシャナ信者たちを眺めながら、クシャナが言いたかったことを悟った。
ドレミファソラシってそういうこと!?
双子のドゴンとシェド、女のミレア、大きな剣を握っているファーゴ、二刀流のソル、ガタイの良いレオナルド、そして、槍使いのライネル。
嘘でしょ、まさかのこの七人衆ってドレミファソラシで名付けられたの!?
「なんて顔してるんだ」
ヴィアンは私の顔を訝し気に見る。
「ちょっとした発見があったから」
「とりあえず、口は閉じておけ」
ヴィアンに顎を触られて、強制的に口を閉ざされた。
何度見たって眩しいぐらいの美形ね。ヴィアン口調だとなんだかいつもの感じで話せない私がいる。
……ヴィヴィアンって喋りやすかったのね。
「女王を救ったのだから、君は英雄だな」
ヴィアンの言葉に私は少し首を傾げた。
私の中でまだ女王はクシャナだったせいで、脳が追い付いていない。
「シーナを助けただろ?」
「あ! ええ、そうね。シーナが女王よね……」
「ああ、今更どうしたんだ?」
「もう、くたくたなの」
私は体力の限界のせいにして頭が回っていないことにしておいた。
変な発言は避けておきたいもの。ここではクシャナのことを覚えているのは、私だけなのだから。
心の中で強く頷きながら自分に言い聞かせた。
「休まないと死ぬぞ」
「死んだら、悲しんでくださいよ?」
「死なせないから、安心しろ」
ヴィアンはそう言って、私の瞼に手を置いた。私はそれと同時に目を閉じる。
一気に眠気が襲ってきた。身体の力が抜ける。もうとっくに限界を迎えていたのだと実感した。その場に崩れ落ちそうな私をヴィアンが力強く抱えてくれたことは分かった。
「後のことは任せろ。少し眠っておけ」
その言葉を聞いて、私の意識はそこで途絶えた。
「主、かなり無理してましたよね」
レオンはヴィアンの腕の中で眠るアリシアを心配そうに見つめながら、そう言った。
「『無理』という言葉を知らない女だからな」
「色んなものと戦いすぎなんですよ、主は……。もう少し休んでもいいのに」
ヴィアンはアリシアの髪を撫でながら、口を開いた。
「戦いたくて戦う者もいれば、戦いを望まずして、戦わなければならない者もいる」
「…………ヴィアン王子って、主のこと好きなんですか」
「私がこいつを?」
「はい」
少し動揺するヴィアンに対して、レオンは冷静に頷く。レオンの視線にヴィアンは目を逸らし「嫌いではないな」と答える。
そう言って、ヴィアンは胸にアリシアを両腕で抱え込み、その場を後にした。
レオンはヴィアンの背中を見ながら、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。
「女のタイプだけは兄弟似た者同士ですね」




