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ライの魔力を感じる方へと進んだ。視界に見覚えのある長い金髪が目に入る。
……ヴィアン。
走る足を止めて、私は彼の方へとゆっくりと近づく。ヴィアンは私の存在にすぐに気が付き、視線をこちらへと向ける。
……気配を読み取る能力に長け過ぎじゃない?
私はそんなことを思いながら、「シーナたちは?」と聞いた。
「大丈夫よ。今はあの老人三人衆が見てくれてるわ」
ヴィアンは私を安心させるような口調で話す。
「それより、彼女どうしたのよ」
ヴィアンが私から視線を逸らし、違う方向へと目線を向ける。
その先には、ぼーっと立ち尽くしたクシャナが立っていた。その近くに先ほどライやレオンたちと戦っていたクシャナ信者たちもいた。
クシャナ信者たちはライとレオンに従っているように見えた。
あの戦いだとレオンたちの圧勝よね。この人数差で、相手もかなりの実力者なのに、よくやったわレオン、ライ!
やっぱり、私って見る目あるわ!
「アリシア、貴女の感情と場の雰囲気が全然一致してないわよ」
逆にどうしてこんなお通夜みたいな雰囲気なのよ。
私はヴィアンの言葉に反抗したいと思いながらも、真剣な表情でクシャナを見ながら口を開く。
「クシャナ、老婆を殺したことを気に病んでいるのよ」
「彼女、あの婆さんを殺していないわよ」
「え……。どういうこと?」
ヴィアンの言葉に思わず目を見開いて、彼の方を見る。彼の表情からして、嘘は言っていなさそう。……ってことは、クシャナに嘘をつかれたってこと?
「…………婆さんは、彼女の目の前で」
「自害」
ヴィアンの強張った表情で彼の言いたいことが分かった。私の呟きにヴィアンは何も言わない。否定しないのなら、老婆は本当に自害したのだろう。
クシャナは自分を責めている。老婆が自害したのは自分のせいだと思っている。
……もう! 私は慈善活動なんかするタイプじゃないの! クシャナを励ましたりなんかしないんだから!
勝手に弱気にならないでよ、クシャナ!
私は心の中でクシャナにそう叫びながら、ゆっくりとクシャナの方へと近づいた。
ヴィアンが「ちょっと」と私を制するのを無視する。なんて声をかければいいのか分からないけれど、きっと正解の言葉なんてない。
私は私らしく、悪女のままでいればいいのよ。
「クシャナ」
彼女はゆっくりと顔を私の方へと向けた。覇気のない赤い瞳が私を見つめる。
……さっき、それなりに活を入れたはずなのに。
もはや、リガルと入れ替わったのかと思うぐらいよ。彼の今の精気をクシャナに分けてあげてたいわ。
私は小さくため息をつき、腕を組み、気だるそうな雰囲気で言葉を発した。
「お望み通り、今、自由にしてあげましょうか?」




