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……友だと思うのだけど、二人とも戦いに一切手を抜いていない。
ライネルはクシャナの信者だし……、本気でリガルを殺そうとしていた。男の子の友情って難しいわね。
「腕が落ちたんじゃないか?」
「お前こそ」
リガルの挑発にライネルは槍を大きく振り回した。それと同時に強い風が巻き起こる。すさまじい覇気にリガルは攻撃を止めて少し後ずさった。
私が見る限り、二人の実力は互角といったとこかしら。……いや、リガルの方が上かもしれない。
「そんなんで本当に俺を殺せるのか?」
「ぬかせ」
今度はライネルが槍を振り下ろして、攻撃へと出た。見事に飛び跳ねながら、リガルはそれをかわす。
その重力を感じていないような動きに私はくぎ付けになる。……天性の才能ね。
クシャナ、あなた森にこんな逸材を隠していたなんて……!
いや、けど、クシャナは彼を殺したいのよね……。複雑な気持ちだわ。
悪女の部隊は最強の人材で作り上げるべきだもの。絶対に彼を殺させたりしない。
ライネルの槍がリガルの腕をかすめる。彼の左腕から流れる血を眺めながら、私は槍と素手の戦いについて考えた。
「どう考えても、リガルが勝つわね」
私はそう確信した。
ライネルがリガルを絶対に自分の懐に入らせないような槍使いなら話は変わったけれど、リガルの方が上だ。きっと、リガルはライネルが自分の身を槍で守れない距離に入りこめるだろう。
……かなり面白い戦いだったけれど、私はまだやらなきゃならないことがある。
やる気の出たリガルなら、もう私がいなくても自分の身は自分で守れるわよね。
「じゃあ、あとは頑張ってね」
私はリガルにそう言って、その場を後にした。
きっとライネルもリガルも戦いに夢中で私の声など全く聞こえてなかっただろうけど。
私は駆け足でクシャナのいる場所へと向かった。ここがどこだが分からなかったが、かすかに感じるライの魔力を頼りに足を進める。
昔、私の魔力でライを治癒したことがある。そのおかげで、ライは僅かだけど私の魔力を帯びている。
本当に我ながら自分を褒めたいわ。
正直、本当にもう魔力も体力もない。ただ気力だけで動いている。
根性論的なものは好きではないけれど、今は根性のみよ。まだなすべきことが残っていると思う強い意志が私を動かしてくれている。
自分に負けるなんて、そんな道は私が許さない。
クシャナ、私はあなたの願いをまだ叶えていない!!
私はその想いを胸に必死に彼女のもとへと走った。




