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こういう目を待っていたのよ。
「ライネル、彼、戦う気みたいよ」
私は少し顔をずらして、ライネルの方を見た。彼と目が合う。私が微笑むと、彼は嫌そうな表情を浮かべた。
「本気になったリガルとはなるべく戦いたくないんだけどな」
「あら、どうして?」
「お前……、こいつの強さを知ってて煽っていたんじゃないのかよ」
私は心の中で興奮を覚えた。そのまま、リガルの方へと視線を向ける。
本気を出したリガルがどれだけ強いのか興味があった。
リガルは力強く髪を掻き上げる。覚悟の決まった表情が現れる。彼の顔にある大きな火傷など目に入らないほどの、強い意志を持った瞳に吸い込まれそうだった。
まさか、私が誰かの気力に圧倒されるなんて……。
「この世に何の意味もなく、頑張って生きている人間を哀れだと思ってる」
……それはそうかもしれないわね。前者については賛同できる。
「そういう感覚は人それぞれだから、頑張っている人間を哀れだと思っていていいんじゃない?」
「否定しないんだな」
リガルは少し目を見開く。
「哀れだと思ってしまうほど、貴方自身が頑張って生きてきたのでしょう?」
私は静かにそう口にした。
別にリガルに寄り添いたいなどとは思わない。
だって、私はウィリアムズ・アリシアよ? ……あ、もうただのアリシアなんだったわ。
「だから、証明して。貴方がいかに哀れかを」
「仰せのままに」
リガルはフッと口角を上げて、ライネルの方へと身体を向けた。
……明らかに気迫がさっきと違う。今のリガルと戦うのは嫌かもしれない。
リガルはグッと両手を上にあげて、身体をグッと伸ばす。
…………待って、あの槍に対して、身一つで挑むつもりなの?
彼が武器を一つも持っていないことに気付いた時には、リガルはライネルの方へと飛び出していた。
風が吹いたのかと思ったぐらい素早く私の前からいなくなった。
な、によ……、このスピード!!
腹が立ってきた。私との戦いの時にいかに本気でなかったがよく分かる。
このモードのリガルと戦っていたら、どうなっていたのかしら……。復讐で前が見えなくなっていた彼よりも今の方がずっと良い。
いつか私も相手してもらおうかしら。とりあえず、この一戦を見届けないと……。
リガルが相手の死角から見事な動きで蹴りと拳を振り下ろしていく。ライネルは槍でなんとかかわしているけれど、攻撃する間がない。
機敏な動きと無駄のない攻撃に鳥肌が立つ。「リガルがほしい」と私の全細胞が躍っている。
ヴィクターに最強の部隊を作ると豪語した。彼を絶対に手に入れる。私はリガルを見つめながら、そう決心した。
剣術と魔法は一流だという自負がある。……が、体術だと話は別になる。
リガルに勝てるという自信がない。けれど、彼と戦ってみたい。
ああ、なにこの嬉しい葛藤は!!
「あのお嬢ちゃん、俺達を見ながらニコニコしてるぜ」
「よそ見していていいのかよ」
リガルがライネルの懐に入り、槍を持っている手に思い切り蹴りを入れた。ライネルは思い切り顔を顰めた。
彼の表情だけで、リガルの一撃がいかに重いものなのかよく分かった。
そんな攻撃をずっとしていたのかと思うと、改めてリガルの体力に脅威を感じた。……体が武器ってあまりにも強すぎる。
ライネルは槍を持ち直し、リガルを睨む。相当な痺れる痛みを我慢しているだろう。
両者とも相当な実力者であることは確かだ。どっちが勝つかは私も分からない。
「この鋼のような体め」
ライネルの舌打ちに対して「なんだか懐かしいな」とリガルはどこか楽しそうな顔をしていた。
……この二人、かつて友だったんだわ。




