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「私を殺そうとしておいて、私をここに呼んでおいて、疲れたですって?」
私は静かに、リガルを問い詰めるように言葉を発する。
ライネルも攻撃をしてこずに、黙って私たちの様子を見ていた。
「俺がシャルルを信じなければ、あの事件は起きなかった。俺を殺したいなら殺せ」
私はハハッと声を上げて笑い、彼を睨んだ。
リガルに圧をかけるようにして、冷たい視線を向ける。彼は怯える感情を瞳に映しながらも、私から目を逸らさなかった。
「貴方なんか私の手で殺す価値もないわ」
リガルは何も答えない。
……とんでもなく面倒くさい男に手を貸してしまったのかもしれない。
「ねぇ、ライネル」
私はライネルに声をかける。彼は私が突然振り向いてきたことに怪訝そうに聞き返す。
「なんだ?」
「邪魔しちゃってごめんなさい。後は好きにしてくれていいわ」
私がそう言うと、ライネルは黙った。きっと、驚いているのだろう。
静寂に包まれた中、「それじゃあね」と私は言って足を進めた。クシャナには申し訳ないけれど、これ以上私が干渉してもどうにもならなさそうだし……。
何よりもリガルのような男に時間を割いている暇なんてないもの。
「おい、一つだけ聞いてもいいか?」
リガルは私を呼び留めるように口を開いた。私は立ち止って、彼を見下げるようにして「なに?」と答える。
「俺のためにここまで来ておいて、置いていくのか?」
「貴方のためなんかじゃないわ。……貴方を裏切らないと言ったでしょ? あれだけ豪語しておいて、行動で示せない人間にはなりたくないでしょ?」
少しの間、沈黙が流れる。
私は軽い溜息をついて、もう一度話を続けた。
「まぁ、とんだ期待外れだったけれど……。生きる気力のないものに、私の労力を使いたくないもの。私はそんなに甘くない」
リガルの顔を見ればすぐに分かることが一つある。彼は紛れもなく苦労人だ。
信じた人に裏切られ、自分の大切なもの全てを奪われた。そして、己もかなり大きな火傷を負うことになった。
自責の念を抱えながら生きてきたのだと、彼の表情から分かる。
部外者や火に対してのトラウマがあったとしても、いつか殻を破らないといけない。
リガルは悔しそうに俯いた。
……クシャナ、まさか貴女の願いを叶えるために戻って来ただけで、こんな事態になるとは思いもよらなかったわ。
世の中、何が起こるか本当に分からないものね。
「置いて行かれることが悔しいのなら貴方も行動で示しなさい」
私がそう言い放って、その場から離れようと足を進めた。数歩足を進めたところでガサッと彼が立つ音が聞こえた。私はリガルの方へと振り向いた。
あら、ついに戦う気になったのね。
私は彼の表情を見て、口角を上げた。
「少しはましな顔になったじゃない」




