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「アリシアにはとても感謝している。……だが、ここは譲れない」
クシャナはそう言って、私から鎌を離して、リガルの方へと向かった。
……速い!
その動きに私はまた転移魔法を使い、先回りした。
私の体力はもう底をついているというのに、クシャナと戦うなんて御免だわ。
「どくんだ、アリシア」
「嫌よ」
短剣を構えて、クシャナの攻撃を私は受け止める。彼女は容赦なく、続けて鎌を振る。機敏な動きに私も必死に短剣でかわす。
こんな重いひと振りを毎度してくるなんて、本当にどんな馬鹿力なのよ!
「リガル、逃げなさい!」
私はリガルに向かって、叫んだ。私の声に反応して、リガルは立ち上がり走り出す。
……良かった。
「余計なことを」
「クシャナ、一体どうしたのよ!」
私はクシャナと交戦しながら、彼女に話しかける。何か理由があるのなら、聞きたい。
これ以上、この戦いを長引かせたくない。
私の短剣が彼女の攻撃を受けて、段々と砕けていく。……この威力を毎度受けていたら、短剣がもたない。
少しずつだが、鎌を振る手つきがぶれるクシャナに違和感を抱く。私はクシャナをじっと見つめた。
………………クシャナ、どうして泣いているのよ。
瞳から落ちる一筋の涙に私は動きを止めた。クシャナは私が動きを止めたことに驚いたのか、私に当たりそうになる鎌の軌道をずらし、鎌の先端を地面へとぶっ刺した。
「何があったの」
クシャナの強い瞳が寂しさに覆われていた。
「……リリバアを殺した。だから、リガルも同等に扱わねばならん」
「ど、うして……」
「けじめだ。今回、死者が数名でた。中には子どももいた」
クシャナの声が少し震えるのが分かった。クシャナが守り抜いてきた場所に火を放ったが、それでも、クシャナにとってあの老婆は大切な存在だったのだろう。
育ての親を自分の手で罰した。
「彼女が自ら死を望んだのね」
あの老婆がしたことが、どれだけ大きな罪だったとしても、クシャナはきっと老婆を守りたかったはずだ。
クシャナは何も答えない。
「……悪いのは全部シャルルでしょ?」
「あいつにはもっと苦しんで死んでもらう」
クシャナは二人ともシャルルに騙されただけだと分かっている。
だけど、老婆を殺した以上、リガルにも筋を通さねばならないと考えているのだろう。
クシャナの気持ちは痛いほど分かる。けど……。
「前回も死者が出たんだ」
私が表情を曇らせたのを察したのか、彼女は静かにそう言った。
郷に入っては郷に従え。私には何もできない。…………そういえば、ライネルは?
私はハッと彼の存在を思い出し、周囲を見渡した。
どこにもいない!!
「ライネルがいないわ!」
私の言葉にクシャナもその場を首を動かして、周りを確かめる。
「……リガルを追ったのだろう」
まずい、このままだとリガルはライネルに殺される。
もし、仮にリガルが殺されるとしても、その相手がクシャナでないと意味がない。
転移魔法をまた使おうと思ったが、リガルの場所が分からない以上、行きようがない。
………………どうしたらいいのよ。
「アリシア、私はどうすればいいのだ?」
クシャナの口から発された言葉は私と同じ疑問だったが、きっと意味合いが違う。
彼女は自分の進むべき道を見失った目をしていた。
私は初めて見る彼女の姿に言葉を失った。いつも余裕があって、完璧な女王の姿しかしらない。
……クシャナを抱きしめたい。大丈夫だと言って励ましたい。
けど、私はそんな励まし方を知らない。だって、悪女なんだもの。誰かを甘やかしたりなんてしない。
私はスゥッと大きく息を吸って、声を出した。
「シャキッとして! 貴女はまだここの女王なのよ!」
パチンッとクシャナの頬に平手打ちをした。突然の出来事にクシャナは目を丸くする。
逃げ場を与えたかった。私がいる前だけでは泣いてもいいと言いたかった。
だけど、それだとダメなのよ。
もう女王でなくなるクシャナには、最後まで女王として輝いてほしかった。私のエゴでしかないけれど、彼女はこの森に君臨している女王なのだと胸を張っていてほしい。
大切な人を失う気持ちはよく分かる。クシャナの場合、自分の手でその人の命を奪っている。
想像できないほどの辛さがそこにはあるのだろう。……だけど、私は彼女が逃げることなんて許さない。
非道だと思われたとしても、クシャナにはその尊厳を守り通してもらう。
「どうすればいい? そんなことも分からないの? 貴女が守りたいものを全力で守りなさい!」
この場に私の声が強く響いた。
「リガルのことを殺したければ、殺せばいい。……過去を蒸し返すのは貴女の勝手よ。けれど、リガルにとって最も苦しいことは『生きている』ことよ。むしろ、老婆はこの世を去って、冷たい目を向けられる人生を免れて良かったかもしれないわね。それに、私にとっては、リガルの気持ちなんてどうでもいい。彼が苦しもうが私の人生にはちっとも関係ないもの。だけど、クシャナには、…………この森を、村人を、誰よりも愛し、守り抜いてきた女王には、自分を見失った状態で誰かを裁いてほしくない」
言いたいことを全て言い切った。
クシャナは目を見開き、私を見つめていた。私はそのまま勢いで大きな声を出した。
時間はない。急がないと!
「リガル!! 叫びなさい!!」
どこまでも届くほどの声量だった。これほどの声を出したのは初めてかもしれない。
『アリシアをここに』
デュルキス国の古語が脳内で響いた。
読者の皆様へ
いつもいつも読んで頂きありがとうございます!!
凄く幸せです!!♡
アニメは見て頂けたでしょうか??
原作と違うところが、またいいですよね~~!♡
もう終わっちゃったのが寂し過ぎますね、、、。
今年も本当にありがとうございました!
皆様に支えられて、今年も元気に頑張ってこれました~!
良いお年をお迎えください~~!♡




