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キャザー・リズ……。
彼女も異端児だ。最初、我々は彼女にしか目を向けていなかった。
平民なのに全魔法が扱える稀有な才能の持ち主。重宝される貴重な存在だ。
そして彼女が世界に平和をもたらすであろう聖女であると考えた。
だが、その彼女の魔法が今日暴走してキャザー・リズは倒れたらしい。
理由はまだ解明されていないが、我々は魔力が強すぎたためだと考えている。
「彼女が聖女だというのは間違いないだろう」
ジョアンの言葉にすぐにネヴィルが反応した。
「しかし、能力が高いだけで賢くなければ聖女であっても我々の仲間になる事はない」
「成績は随分と良いみたいだ」
「成績が良いと賢いはまた別だ」
「そうだ。そこでアリシアをその聖女キャザー・リズの監視役につけるのはどうでしょうか?」
私はジョアンのいう事にまた耳を疑った。
何を言っているのだ。私の娘を聖女の監視役にする?
「何度か会って確信したのだがアリシアは物事の本質を見抜ける目、鑑識眼を持っている」
「だからって監視役にするのはアリシアの気持ちを無視しすぎだろ」
私が思っている事をデレクが代弁してくれた。
デレクの長い真っ赤な髪の毛が燃えているように見えた。
「ジョアンが言っているのは監視役だけではないのだろう」
私はジョアンを睨みながらそう言った。
「ああ。聖女に賢い判断をさせ、国のトップになれるようにしていく役目もある」
つまり時には辛辣な言い方をしなければならないという事か。
そうなるとアリシアは間違いなく孤独になる。誰にも自分の事を相談出来ず孤高な人となる。
周りから何を言われてもそれに耐えなければならない。
他人の監視役で自分の娘の人生を潰されるのか……。
「俺は反対だ」
デレクが真っ先に手を挙げた。
「私も反対だ」
私も続いて手を挙げた。
ネヴィルは腕を組みながら難しい顔をしている。
「魔法学園に入学した後にアリシアにキャザー・リズの監視役をしてもらう……」
ルークは俯きながら小さくそう呟いた。
まさか、本当にアリシアにそんな役をさせるつもりか?
自分の娘じゃないからってそんな非道な考えを押し通すのか。
確かに我々が最も考えなければならないのは国の平和だが、アリシアは私の娘だ。
「アリシアが十三歳になった時に直接本人に聞いてみるのはどうだ? 魔法学園に入学する事とキャザー・リズの監視役になってくれるか、と」
ジョアンの提案に対してルークが顔を上げた。その深い青い瞳からは決意を感じた。
それからゆっくり口を開いた。
「悪役になってくれるか、と」




