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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「立てと言っているのが聞こえぬのか」

 クシャナは地面に倒れたままの老婆を睨む。育ての親だと言っていたのに、容赦ない。

 大切な村を火の海にしたのだから、同情の余地はないけれど、このクシャナの態度は凄いと思った。

 だって、この老婆は私にとってのウィルおじさんのような存在でしょ?

「早く立て」

 クシャナは老婆の胸倉を掴み、強制的にその場に立たせた。

 あんなに大きな鎌を触れるのだから、老婆一人ぐらい軽々しく持ち上げれる。

「すまぬ」

 老婆はそれだけ口にした。

「何がだ」

 クシャナは険しい表情のまま老婆に冷たい口調でそう言った。

 彼女がここまで怒っている姿を初めて見た。村を壊されたこと、そして、犯人が老婆であったこと。

 ……信頼していたものに裏切られたんだもの。穏やかじゃいられないわよね。

「ここまで、大きくなるとは思っていなかったのじゃ」

 涙を必死に止めようとする老婆にクシャナは怒鳴った。

「自分のしたことが分かっておるのか!」

 張り詰めた空気に私は手に汗を握る。クシャナの声に小さな女の子もビクッと体を震わせた。

 物凄い形相でクシャナは老婆を見る。

「クシャナ、わしを殺せ」

 暫く沈黙が続いた後、老婆の確かな声が重く響く。

 …………なっっっんて自分勝手なの!

 彼女のエゴでどれだけの被害が出たと思っているのよ。

「妻が死にそうなんだ! 誰か助けてくれ!」

 男性の声がここまで届く。耳を澄ませば、助けを呼ぶ声があちこちで聞こえる。火は消えたものの、その被害はあまりにも大きすぎた。

 クシャナは老婆を睨んだまま、口を開いた。

「死んで償えるほど、お前の命に価値はない」

 老婆にとって、その言葉ほど辛いものはないのではないかと思った。

 クシャナを冷たい人間だと言う人もいるかもしれない。だけど、心優しい彼女をここまで怒らせたのだ。

 クシャナはそれほどこの老婆のことを信頼し、愛していたのだろう。だからこそ、その失望が絶大なものとなった。

 私は老婆を一発殴ってやりたかった。

 クシャナにとって、女王として最後のパーティーをよくもここまで最悪なものにしてくれたと、私も怒鳴りたかった。

 けれど、そんなことは出来ない。

「クシャナ様! シーナ様が!」

 この場の空気を壊すかのように若い女性がこちらに向かって走ってくる。

 もう、これ以上、クシャナから何も奪わないで。

 私は心の中でそう呟いた。

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