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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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 ……やっぱり、どうもこの人のことは好きになれない。

「また何も知らないふりをするのですか」

 俺は祖母を責めるようにしてそう言った。

 彼女の眉が少し動いた。前回は母の時だった。彼女は俺が何を言っても、沈黙を貫いた。

 だが、今回はそうはさせない。アリシアは俺が絶対に守ってみせる。

「……そなたの母同様、あの小娘を守れぬことが怖いか?」

「ええ、とても」

 俺は素直にそう答えた。 

「そなたの母は侍女の恨みを買ったのだ。……あの小娘もどこかの誰かから恨みを買って、攫われたかもしれぬな」

 他人事のように祖母はそう言った。

 彼女のその物言いに腹が立つが、怒りを抑えた。

「侍女から恨みを買っただけで処刑にはなりませんよ」

 貴女が母を守らなかったのだ、という意を込める。アリシアが攫われる可能性は無きにしも非ず。だからこそ、強く否定はできない。

「私のせいだと?」

 重圧のかかったその声に俺は表情を変えずに「そうは言ってませんよ」と返す。

 ……祖母との会話は疲れる。

 気軽にお茶などしあえる仲では到底ない。

 彼女はティーカップを口に運び、紅茶をゆっくりと口に注ぐ。ティーカップを口から離し、小さく息を吐いた。

「母のために侍女を殺す男だ。小娘のために私も殺しかねん」

 鋭い視線が俺の方へと向く。

 流石良く分かっている。アリシアを奪う者には誰であろうと容赦はしない。たとえ、それが祖母であろうとも。

「あの小娘のことは気に入らぬが、必要以上の罰はあたえていない」

「アリシアが行方不明なのは無関係だと、貴女の口から聞けて良かったです」

 祖母は嘘は言っていない。

 ということは、また誰か別に犯人がいるはずだ。……ラヴァール国の者か?

 いや、でもあの者たちは魔法など使えぬ。

「デューク、父は好きか?」

 俺が頭の中でアリシアを攫った犯人像を考えていると、突然祖母が質問してきた。

 父のことは好きか、と祖母が聞いてくるとは……。予想外の言葉に俺は目を丸くした。

 彼女の質問の意図は分からないが、「はい」と少し戸惑いながら答える。彼女は「そうか」と相槌を打つだけだった。

「なぜそんな質問を?」

「そなたから父に対しての敬意はあるが、王に対しての敬意を感じられぬからだ」

 ……よく俺のことを見ている。

 図星だったのかもしれない。何も返答できない俺に祖母は「知らないだろうが」と付け足した。

「ルークはお前の母を守ろうと戦ったのだ」

 え、と俺は声を漏らす。

「父は何も……」

「戦ったが、救えなかった。それをわざわざ息子に言うわけがなかろう」

 祖母はとても父のことを愛しているのだろう。

 珍しく、彼女が表情を変えた。父の話になると、「母」の顔になる。

「自分の不甲斐なさを責めて生きているのだ。そうは見えぬだろうが……」

 親子そっくりですね、と言おうと思ったがやめておいた。

 祖母も母も、立場に縛られて生きている。……それは俺もだ。

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