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もし、デューク様の水魔法が使えたら……。
馬鹿げた案だと思われるだろうけど、一つだけ試したいことがあった。
私はギュッとデューク様から貰ったペンダントを握る。もし、ここからデューク様の力を貰うことができれば……。
私がペンダントに魔法を込めた。その瞬間、別の力によってはじき返された。パチンッと音が鳴る。
「な、に」
私は驚きながら、今、自分の身に何が起きたのか考える。
…………ジュリー様、このペンダントにも何か細工したわね。
彼女の仕業だとすぐに気付いた。抜け目がない彼女に私は思わず口角を上げてしまった。
身分剥奪された今、デューク様の力も借りることは許すまいとこのペンダントに何か毒魔法特有の魔法がかかっている。……まさか私がこの地へと飛ばされるのは予想外だったのだろうけれど。
もし、デューク様が私の魔力やペンダントを頼りに私のことを探していたとしたら、まず見つからないだろう。
私ってば、死んだと思われている?
そんなことを考えていると、ボンッと近くで爆発音が鳴り響いた。
灼熱の炎に丸焦げにされる前に、早くこの場の事態をおさめないと……。
私はこのペンダントにかけられた、魔法を封じ込めるような結界を必死に解く。ペンダントが紫色の光に包まれていく。
……ジュリー様よりも魔法レベルが上で良かったわ。 やっぱり、何事もレベルは上げておくべきね。
かなり高度な魔法だったが、解けなくはない。あと少しで魔法が解ける!!
パリンッとペンダントから音が聞こえた。その瞬間、デューク様の魔力を微かにペンダントから感じた。
「やったわ!」
……デューク様の魔力、確かにあった。
ペンダントに今まで魔力を集中させたことはなかったが、いつも見守ってくれていたのだと少し胸が熱くなった。
私がこんなにも自由にどこへでも行けるのはデューク様のおかげだ。
「アリシア! このままでは我々も焼けてしまう!」
クシャナの声が耳に響いた。
辺りを見渡すと、あまりにも惨い光景だった。煙で咳するクシャナを見つめながら、確かな声で叫んだ。
「私がいるのよ?」
その言葉だけで充分だった。
クシャナは目を丸くしたが、すぐにニッと笑みを浮かべた。「ああ、そうだな」と言ったような気がした。
私はペンダントからデューク様の魔力を少し借りて、上手く自分の魔力と融合させた。
こんな高度で誰もやったことがない方法、私しか出来ないわよ。
この国には魔法を使える者がいないから、今、私がどれだけ凄いことをしているのか誰も分からないのが悔しいわ。
基礎がしっかりとしているんだもの。これぐらい出来て当然よ! 応用の為に今まで積み上げてきたのだから!