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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「何があったの」

 私は男を真っ直ぐ見つめながら、そう聞いた。前髪の間から彼の赤い瞳が見えた。

 …………綺麗な瞳の色。

 敵ではない、と証明するのは容易ではない。男は少しだけ迷いをみせたが、グッと奥歯を噛みしめて「お前になど教えるものか」という目を私に向ける。

 私は小さくため息をついた。

「残念ね」

 男の手首を一瞬で掴んで、上へと持ち上げた。それと同時に魔法でナイフを壊す。パラパラといくつかに割ったナイフの破片が地面へと落ちていく。

 詰めが甘いわ。私が攻撃してくることを想定しておかないと……。

「ッ……!」

 男の声にならない声に私はフフッと軽く笑い、彼の鳩尾に蹴りを入れる。「カハッ」と彼は苦しそうに声を発して、その場に膝をつく。

 私は悪女なのよ? 優しくなんかないわ。

 そっちが攻撃的に挑んでくるのであれば、私もそれに応えるだけ。

 彼の前髪をグッと掴み、地面に落ちたナイフの破片を魔法で宙へと浮かばせた。いくつかの鋭くとがった刃を彼の方へと向ける。

 男の瞳にはさっきまでの敵意は消えており、恐怖と不安だけが残っていた。

 彼の顔には酷い火傷の痕が残っていた。初めて出会った時のレベッカの大火傷と同じぐらいだわ。……彼の火傷の痕はもう消すことはできないけれど。

 この傷を隠すために、ずっと前髪で顔を覆っていたのかしら。

 そんなことを考えていると、彼は震えた声で「やっぱり、お前もあいつと一緒だ」と呟く。

「あいつって誰?」

 私がそう言うと、男はまた口を閉ざした。

 ここまでされて、まだ何も言おうとしない彼の勇気に拍手を送りたくなった。人々がこの村でずっと安泰に暮らしてきたわけではないのは確かだった。

「この火傷は?」

 私が火傷のことに触れたのが不快だったのか、男は露骨に表情を顰めた。

 男は二十代後半ぐらいに見えたが、随分と苦労したのが分かるぐらいには老け込んでいた。

 せめて、髭ぐらい剃ればもっと若く見えるのに……。もしかしたら、髭も火傷を隠すために伸ばしているのかもしれないけれど。

「このまま何も答えないつもり?」

 私は宙に浮かしていたナイフの破片を彼の方へと更に近付けた。それでも、彼は口を開くことはない。

 そこまでして、過去を隠したい理由はなんなの。

 私は彼の前髪から手を離した。魔法で宙に浮かせていたナイフの破片も地面へと落とした。

 驚いた表情を向ける彼に「貴方、名は?」と聞いた。彼はゆっくりと「リガル」と答える。もう彼には私を襲おうとする様子はない。

「リガル、歳は?」

「二十七歳」

 名前と年齢は随分とあっさり教えてくれるようだ。

 ……個人情報を聞いた分、私も伝えておかないとね。

「私はアリシア、歳は十六歳。デュルキス国、元ウィリアムズ家の令嬢よ」

 ここまで教えれば、少しは警戒心を解いてくれるだろう。

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