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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「なぁ、お前」

 呑気にマカロンを食べながら、パーティーを楽しんでいると、男性の敵意ある声が聞こえた。

 私はマカロンを飲み込み、声の主の方へと振り向いた。

 …………初めて見る顔だわ。背はそれほど高くないけれど、体は絞っていて、良い体格だ。

 初対面で「お前」だなんて、失礼な人。

 私は何も答えずに、男の方をじっと見つめた。…………身なりは悪くない。ただ、長くて前髪が目にかかっていて、あまり顔が見えない。

 けれど、私のことを睨んでいるのは分かる。

 …………こんな風に睨まれるの、魔法学園ぶりじゃないかしら。

 私が最も悪女らしく輝いていた時代ね……。じゃなくて! これからもまだまだ悪女として輝くんだから!

「よそ者がこのパーティーに参加してるんじゃねえよ」

「私はクシャナに正式に招待されたのよ?」

 私がこの森の者ではないから、敵対心を向けられているのだろう。

 堂々とそう答えた私に男は「女王が招待したとしても、俺は歓迎しねえ」と強い口調で言う。

「じゃあ、貴方はクシャナに逆らうの?」

「女王の名を簡単に言うんじゃねえ」

 私がクシャナの名を呼ぶと、彼の表情はますます険しくなる。……前髪でほとんど顔が分からないというのに、凄い形相で私を睨んでいるのだけは分かる。 

「この場で貴方と争う気はないわよ」

 私は小さくため息をついて、彼から離れようと思った。

 クシャナがこの森の女王としての最後のパーティーで揉め事を起こしたくない。暴れるなら、また今度よ。

 私は彼に背を向けて、「今日はお互い楽しみましょ」と口にした。

「逃げるのか? 負け犬」

 彼の言葉が耳に響く。

 …………「逃げる」も「負け犬」も悪女が嫌う言葉。けれど、ここは私が気持ちを抑えないと。

「あまり、私を煽らないことね」

 私は彼の方を振り向かずにそう発した。

「本当のことだろう? お前みたいな、何の苦労も知らないお嬢様なんてここにいるべきじゃねえんだよ。とっとと、失せな」

「どうして私をお嬢様だと思うの?」

 私はチラッと男の方を向いた。彼はハッと鼻で笑い、「お前みたいな平民いてたまるか」と唾を吐き捨てた。

 育ってきた環境が違うのだと瞬時に判断できたその観察力は褒めるわ。

「お前を呼ぶなんて女王の気が知れないな。こんな女に騙されるなんて」

 私は瞬時に、彼の傍へと近付き、片手で軽く首を絞めた。

「貴方は今、自分で自分の主を愚弄したのよ」

「そ、んな、つもり、じゃ…………」

 私に首を掴まれているせいで、声が出しづらそうだった。周りが私を見ている。……変に騒ぎを起こしたくない。

 私はパッと彼の首から手を離して、微笑む。怖い思いをさせたのだから、笑顔で中和させないとね。

「女王の客人を蔑んだことがどれほどのことか、ちゃんと理解しておきなさい」

 男は私の言葉にグッと下唇を噛み、何も言い返してこなくなった。

 ……これで、あまり目立たずに、穏便に済ませたかしら?

 周りの目もこっちの様子を窺っていたけれど、男が何も言い返さなくなると、こちらに向けられる視線はなくなった。

 外部から客人が来ることは滅多にないのだろう。いくらここに馴染む格好をしていても、好奇の眼差しを向けられている。

 …………いくらクシャナのパーティーと言えども、ちゃんと気を引き締めておきましょ。

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