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私は女の子たちと離れて、パーティーを見回ることにした。
活気があって、素敵な雰囲気だわ。……それに良い香り。長いテーブルに美味しい食事が並び始める。
それに、沢山の種類のケーキ! チーズケーキにチョコレートケーキ、それに……、それに!! それに~~!
「マカロンっ」
私は思わず声を上げた。
ああ、この甘い匂い。私が待ち望んでいたスイーツだわッ!!
私が手を伸ばしたその瞬間、「まだじゃ」と老婆の声が私がマカロンを食べようとするのを制した。
私は思わずビクッと体を震わせた。
「もう少し待て、小娘」
……あら、小娘だなんて。
老婆の方へと顔を向けて、彼女と目を合わす。
背中は丸く曲がっており、ジルよりも背が低い気がした。細い白髪を一つにまとめており、この村の民族衣装を着ている。木で作られた杖を突きながら私の方へと近づいてくる。
深い緑色の瞳だ。
「ああ、お前さんか」
老婆はフッと表情を綻ばせた。私は眉をひそめて、彼女の言葉の意図を考える。
「…………何がです?」
「お前さんが黒い薔薇の少女か」
どうしてそれを…………。
私は老婆の言葉に固まった。……黒い薔薇、黄金の薔薇、青い薔薇。
そのことを知っているのはデュルキス国の五大貴族ぐらい。他国の者が知っているわけがない。ましてや、こんな山奥の人に伝わるはずが……。
「わしはクシャナにこの森のことを全て教えた」
「どういうこと?」
もしかしたら、私は凄いおばあさんに出会ったのかもしれない。
「あの子は特別だ。わしと同様、妖精に愛された子だ」
どうしよう。おばあさんが勝手に話を進めているけれど、私は全く追いついていない。
私がキョトンとしているせいか、老婆は話を続ける。
「動物と会話など、普通の者ができるわけなかろう。……動物は色々なことを教えてくれる。人間に対して不満はあるだろうが、人間の世界を公平に見ている」
クシャナが妖精と関わりがあるのなら、なおさら彼女は女王であり続けるべきよ。
私は老婆の話を聞きながらそう思った。
「そして、時に空を渡り情報を届けてくれる」
「…………だから、薔薇の話も知っていたのね」
鳥がこの老婆にデュルキス国のことを伝えたのだろう。
もしかしたら、クシャナとこの老婆がこの世界の情報を最も正確に入手しているんじゃないかしら……。
ラヴァール国の王子たちよりも彼女たちの方がよっぽど脅威かもしれない。……やはり、女は強し。
「ねぇ」
「女王様よっ!!」
私が老婆に向けて発した声は、タイミングよく大きな女性の声にかき消された。