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部屋を出ると、驚くほど人々が集まっていた。皆、着飾っていて華やかだ。老人から子どもまで、喜びの表情で覆われていて、目の前に幸せな空間が広げられていた。
長いテーブルが外に何個も置かれており、白いテーブルクロスがかかっている。多くの種類のお酒が並んでいて、ワイングラスも用意されてあった。……花まで盛大に飾られてある。
なんだか、色鮮やかなパーティーね。
「どうですか? 楽しそうでしょう?」
シーナは私がぼんやりと様子を眺めていると、後ろから声をかける。
私は、クシャナにとって最後のパーティーの様子を見つめたまま「そうね」と小さく答えた。
この日で、もうクシャナのことをここにいる民たちは忘れる。それがひどく切なく思えた。多くの者から慕われ、この森を守ってきて女王が、今日ここから去る。
記憶を消すことが、民にとって最後にできることだと言っていたけれど……。
あれはどういう意味だったのかしら。
「ねぇ、シーナ」
「なんでしょう」
「私も最高に楽しむことにするわ」
私はシーナの顔を振り返らずにそう言った。シーナの「ぜひ」という声が静かに耳に響いた。
「おねえちゃん、瞳がとっても綺麗! どこから来たの?」
突然、二人の小さな女の子が近づいて来る。
姉であると思われる方は後ろで三つ編みで髪を一つにまとめている。妹らしき女の子は、髪を左右に分けて三つ編みをしている。
二人とも私の瞳が珍しいのか、四つの目が私のことをじっと見つめている。
私は彼女たちと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「今日はね、クシャナ女王のために来たのよ」
「女王様のために!? 私、女王様のこと大好き! とっても優しいの」
「そうなの! 女王様はすごいの!」
二人はクシャナの名を出た瞬間、とても嬉しそうな声を出す。
「どうすごいの?」
私はクシャナの話をもっと聞きたくなった。私がそう言うと、女の子二人はもっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「昔、私が川で溺れた時があったの。お姉ちゃんが助けを叫んでも誰も周りにいなくて、私、死んじゃうかと思った時に女王様が現れたんだ! とってもかっこよかったの!」
「本当にかっこよかったの! 凄かったんだ、あの時の女王様!」
姉らしき女の子も声を上げる。
本当にクシャナのことを尊敬しているのだろう。
「どうしてクシャナは貴女たちの居場所が分かったの?」
「キツネに教えてもらったって言ってたよ。私たちの叫び声を聞いたキツネが女王様に伝えにいったんだって」
姉である方が答える。
…………そうだわ。クシャナは動物と会話できるんだもの。
ここの女王はクシャナ以外いないんじゃないのかしら。彼女の代わりが務まる者などいない気がする。
私は小さな女の子の話を聞きながら、そんな思いが強くなってきた。




