表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
580/710

580

 シーナが部屋に入ってくる音で私は目を覚まし、久しぶりに会話をした。

 その後、彼女に言われるとおりに体を綺麗にして服に着替えた。前と同様、私の髪を少しつまんで、三つ編みをしてくれる。

 全く変わらない彼女の対応に私は安心した。

 ベッドに座りながら、私はシーナに髪を梳いてもらっている。

「なんだか外が賑やかね」

 私はそう呟く。

 きっと、外が賑やかな理由を私が知っていることを彼女は知っている。昨夜、彼女とクシャナはどんな会話をしていたのだろう。

 ただパーティーを開きたい、とだけ話したのかしら。それとも、クシャナの想いとか……。

「今日は女王の気まぐれなパーティーだから。……珍しくて、皆張り切っているんですよ」

 そう言ったシーナの声は、外から聞こえてくる明るい声と違って随分と悲しそうだった。

 もしかしたら、シーナは何か勘付いているのかもしれない。……けれど、私からは何も言えない。

 もどかしい気持ちを押し込めながら、「クシャナは?」と聞いた。彼女は私の髪から櫛を離し、朗らかに微笑んだ。

「着替えています」

「着替えてる?」

 クシャナからはパッと連想できない言葉に、私は首を傾げてしまう。

 いつもの狩りをするような恰好ではないということ?

 ……ここに礼装があるの?

「あともう少しでパーティーの準備が終わるから、それに合わせて出てくると思います」

 時間をかけて準備しているということは、やっぱり正装になっているのかしら。

 どんな服装なのか想像できない。

 私はチラッと衣裳棚へと視線を向けた。細かく彫られた扉の文字を見つめる。…………やっぱり、ラヴァール国の古語だわ。

 私は文字を見つめたまま、 ベッドから腰を上げて、衣裳棚の方へと足を進める。

「どうかなされましたか?」

 衣裳棚へと近づく私を止めるかのように、シーナは言葉を発した。

 私はその声に彼女の方へと振り向いた。…………教えてくれないかもしれないけれど、直接聞いた方が早いわよね。

「どうして、ここに『クシャナ』って古語が書かれているの? ……どうして、その隣に『グラシャス家』なんて書かれているの? こんな風に家名を彫るのはお金を持つ者よ。それも貴族並みの」

 ラヴァール国の貴族の名は知らない。グラシャス家という貴族があるのかどうかも分からない。

 だから、私はシーナに思ったままの疑問を口にした。

 ………………クシャナは森の女王だから、この森で過ごす人々の中で最も偉い。……ラヴァール国の貴族の血が流れている可能性は充分ある。

 勝手に私はクシャナを貴族ではないと思っていたけれど、そうではないのかもしれない。

 鎌を振り回す令嬢なんて聞いたことはないけれど、私が令嬢を語ることはできないわ。…………剣を振りまわしているんだもの。

「私の口から何も言えません。クシャナがきっと話してくれるでしょう」

 ……あの女王は私に話してくれるかしら。 

 シーナは絶対に教えてくれないだろう。口調は穏やかだが、彼女はクシャナ同様、強い芯を持っている。

 シーナから聞き出すのは諦めた方が良さそうね。……もう少しこの村とクシャナを観察してから結論付けましょ。

 私は小さくため息をついて、この部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 〉……どうして、その隣に『グラシャス家 〉』なんて書かれているの? ↑変なところで改行が入ってしまっています(誤字報告では修正できないのでこちらで)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ