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声のする方へと私は近づく。段々象の声が大人しくなっているのが分かった。
きっとクシャナの力だろう。この象をなだめているのだ。
視界にチラッと彼女の姿が映った。
初めて会った時とほぼ一緒の姿だが、不思議な模様の仮面は着けていない。手には長くて大きな鎌を持っていて、……物騒よね、けど、それがクシャナ。そして茶色い毛皮を着て、長い髪は編み込みされており、額が見えている。
久しぶりのクシャナ~~!!
カッコいい髪型よね。クシャナしか似合わないと思うわ。
私はイケメンな彼女の顔を見つめながら、「クシャナ」ともう一度呟いた。
彼女は私の声に反応して、視線をゆっくりと私の方へと向けた。強く赤い瞳と目が合う。
彼女が目を大きく見開くのが分かった。
「アリシア」
彼女はそう呟いて、象から手を離して私の方へと近づいてくる。
私の前に立つと、背が高いのがよく分かる。…………モデル事務所に引っ張りだこってぐらいスタイル良いわね。
うらやましいわ……。
「久しぶりだな」
軽くニッと笑うクシャナに私も軽く微笑んだ。
本当なら抱きつきたいけれど、悪女はそんなことしないものね……。我慢我慢。
「再会のハグでもするか?」
「え?」
「ほら」
私が考えていることを読み取ったのか、彼女は両手を広げて、胸に飛び込んでこい、という目を私に向ける。
……クシャナが言うなら、しょうがないわよね。
私は「クシャナ!」と声を上げて、彼女の胸に飛び込んだ。クシャナは「よく戻って来たな」とギュッと抱きしめてくれた。
あ~~、なんという安心感。
「元気だったか?」
「ええ! とても!」
無意識に自分の声が高くなっているのが分かる。
クシャナに会うのを私は楽しみにしていたのだと、自覚する。明るくなる自分の感情に、さっきまでの象との戦いをすっかり忘れていた。
「この子もお前がやったのか?」
「……あ、ええ。その、攻撃してきたから」
私は少し気まずそうに答えた。
森の女王は、森の動物を大切にしているはずだ。それが今、こんな風に倒れてしまっていて……。
まぁ、襲ってきたのだから、これは正当防衛よね!
「このお嬢は敵じゃないよ」
クシャナはそう言って、象が起き上がるのを片手で手伝う。その場に立ち上がる象を見つめながら、一体どんな力なんだクシャナ、と考えていた。
……やっぱり、もっと私も筋トレしないといけないわね。
あの、とクシャナに声を掛けようとした瞬間、グゥ~~~と私のお腹の音が大きく鳴った。
少しの間、沈黙が流れ、ハハッとクシャナの笑い声に私は恥ずかしくなり、頬を膨らます。
「マカロンが食べたいわ」
「残念だが、ここにはそんなものはない」
彼女はまだ笑っている。




