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なんだか象の背中の弾み具合の感覚分かってきたわ。
このままずっとスキップで象と一緒に楽しんでおくのも……、楽しんでいるのは私だけか。
「そろそろ切り上げよっと」
私は象の背中から下りて、地面に転げ落ちる。……上手く受け身を取れなかった。まずい。
私は少し顔を上げて、周りの様子を確認した。
「え」
思わず目を丸くしてしまう。
象たちは少しふらついている。さっきみたいに鋭い目をしていない。私の周りを囲んでいた象たちの動きが鈍っている。
嘘でしょ……。象の目を回そう作戦、ちゃっかり成功してない?
馬鹿な作戦ほど意外と効果あり、って本でも書けちゃいそう。
私はそんなことを思いながら、その場に立ち上がり、彼らの隙をついて逃げた。
象と仲良くなりましょう! なんてヒロインみたいなことはしない。動物と一緒に歌を歌って、仲良くしている自分が想像つかないもの。……もちろん、ライは別だけど。
私が必死に逃げていると、一匹の象が私を追いかけてくることに気付いた。
最初に、私と目が合った象だわ。傍から見たら区別なんてつかないのだろうけど、勘で分かる。
こういうのは理論で分かった方がカッコいいのだけど、象の区別なんて勘で分かれば充分よ。
私はそんなことを考えながら、私はいつまでも自分のことを追ってくる象のことを考えた。
「大勢の敵から逃れました! って言おうと思ったのに、まだまだ戦いは終わりそうにないわね」
象の凄まじいスピードに私は追いつかれそうになる。
段々目が回っていたのも落ち着いて、加速してきてる。人間の私が象のスピードに勝てるはずない。
はぁ、と心の中でため息をつき、私は腕を胸の前で構えて受け身をとる。その瞬間、私は象の鼻で思い切り飛ばされた。
いったあぁぁぁぁ!!!
全身がブルッと震えて、腕と胸に激痛が走る。とんでもない衝撃だ。
ビリビリッと骨にまで響く。もし、ガードしていなければ、死んでいたなと思うとゾッとした。
なによ、これ。
しつこい象に、負けるアリシア?
そんなの許さない。
自分がスローモーションに動いているように見えた。
象から攻撃を受けたのは初めてだ。このままぼんやりと飛ばされたままだと、着地の際に骨を折るだろう。
象は私をじっと見つめながら様子を確認している。
強い者は好きよ。さらに、その対象が自分だと……凄く燃えるわね!
「こうでなくっちゃ!」
私はそう言って、クルッと宙で回り、近くの木の枝に飛び乗った。
悪女たるもの、敵も脅威的な存在でないとね!
私はまだジンジンと痛む腕で木の枝を掴み、しゃがみながら象を睨み返す。
「どうしてこの象だけが私のことを追ってきたのかしら……」
他の象は私を追ってこない。
敵を排除しようとする意識が強い? 狙った獲物は逃さない?
私はそんなことを考えながら、象が私の方へと近づいてくることに身構える。
また、あんな攻撃を受けたら、次は負け…………いや、待って。もう一度あの攻撃をしてもらえばいいわ。
私はパッとまた馬鹿なアイディアをひらめいた。




