572
象を説得する方法なんて、本で読んだことはない。
…………こうなったら力ずくね!
私は拳に力を込めた。魔法がなくても、私は強い。
そうよ、ライを倒した時だって、魔法を使っていない。
「象にだって勝てる!」
私はそう言って、象たちの前に仁王立ちする。……が、彼らには私の威厳は全く通じていないようだ。少しも動じていない。
……流石、象ね。
私は近くの木の棒を拾い、剣を握るように構える。この象たち全てを相手に……してやるわ!!
近くにいた一匹の象の元へ駆け寄り、木の棒で足に一撃を与える。
パキッと音を立てて、棒は一瞬で空へと舞った。
「あら」
想像以上に、象の皮は強かったみたい。象へのダメージはゼロ。
握っていた残りの小さな木の棒をポイッと捨てて、全力で走りだした。
このままだと一瞬でやられてしまう。拳で戦いたいけれど、もう少し象の様子を観察しないと……。
彼ら相手だと、私は逃げ切ることすらもできないだろう。
私は必死に走るが、象の速さには負ける。元々囲まれていたこともあり、隙をついて、逃げようとするのはかなり難しい。
……象なんてチートじゃない!
「あ~~~~、逃げ道がない」
このままぐるぐる逃げても、らちが明かない。
あ! 体力だけはあるから、ここでぐるぐる走り続けて、象の目を回してしまえばいいんじゃないかしら。…………なんて馬鹿な作戦。王宮爆破計画よりも酷いわ。
もっと、真面目に考えてよ、アリシア。
私はがむしゃらに一番近くにいた象の鼻に飛び乗った。
ブンブンと振り回され、脳みそが痛くなる。
本当になんて力なのッ!! この力で放り投げられてたら、大怪我してしまう。
私は必死にしがみつきながら、次の行動を考えた。
いっそのこと、これをショーだと思えばいいんだわ!
何か困難があったら、ノリノリで戦わないとね!
「象さん、私と一緒に遊びましょ!」
私はニッと笑い、象の力を利用して、思い切り左右に揺らされているタイミングでパッと手を離した。
「さて、始まりました! アリシアは象の円の中で舞います」
私は自分でナレーションしながら、宙で前回りをして、象の背中へと移り乗る。
「ご覧あれ、見事な着地」
これで、強引だけど象の上には乗れた。象の上で着地するなんて初めてだから、バランスを崩しかけたけれど、なんとかなった。
後は…………。
キャッ、と思わず声を出してしまう。
象の背中に乗れば、象が友好的になって、私をクシャナの元へ連れてってくれるかと思ったけれど、そう甘くないようだ。
象は激しく体を動かして、私を落とそうとする。
もう! 少しは大人しくしてよ!
私は象から隣の象の背中へと移る。バランスを崩さないように、出来るだけスピーディーに足を動かす。
次から次へと象の背中に乗り移る。
…………なんだか、私ってば、サーカス団の一員みたいだわ。




