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私はウィルおじいさんの言った事の意味が理解できなかった。
「破滅?」
ウィルおじいさんはゆっくり頷いた。
破滅するって事はもう二度と魔法を使えなくなるって事よね?
「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫じゃ」
ウィルおじいさんの温かい声が私の心を落ち着かせる。
私の表情を読み取る度に本当は見えているんじゃないかしらって疑ってしまうわ。
「わしの知り合いで幼い頃から魔法を使えた者がいたんじゃ。稀有な才能を持っていると周りから言われ、どんどん魔法を使い、十三歳になる前にレベル80を習得したんじゃ」
「レベル80?」
レベル80を習得するのには最低三年……。
それにレベル80って事は大貴族よね?
その子も私と同じ歳で魔法を扱えたって事よね。
「ああ。レベル80を習得するとやはり自惚れてしまう。他の者より自分は優れていると」
「自惚れてしまうのは当たり前なのでは?」
十三歳でレベル80を習得して自惚れない方がおかしいわよ。
「しかし、それが破滅の原因となったんじゃ」
ウィルおじいさんが寂しそうに笑った。
「自惚れた少年はレベル80を習得出来た事から、自分は順番にレベルを上げずとも次にレベル100を習得出来ると考えてしまったのだ」
レベル100って世界で数名しかいないレベルよね…。
でも確かにその考えになってしまうのも分からなくないわ。
「それでその少年はどうなったのです?」
「もう二度と魔法を使えなくなったんじゃ」
大貴族で魔法を使えなくなるなんてあまりに残酷だわ。
その少年は周りからの期待を失望に変えてしまって、その圧を一生背負っていかなければならないのだから。それともその少年は家を出たのかしら。
私はウィルおじいさんに詳しく話を聞こうと思ったけどやめておいた。
あまりにもウィルおじいさんが苦しそうにしていたからだ。
目がないけれど私には分かった、ウィルおじいさんが泣いている事を。
きっと知り合いじゃなく、大切な仲間だったのね。
私の胸も苦しくなった。
「アリシア、その才能は素晴らしい。だが、決していきなりレベルを上げて習得しようなんて考えないでおくれ」
ウィルおじいさんが私に訴えかけるように言った。
「分かりましたわ」
私がそう言うとウィルおじいさんが、いい子じゃ、と言って私の頭を撫でてくれた。
いつもは心が温かくなるのだけど、今日は何故か心にある辛さがなくならなかった。




