567 十二歳 ジル
「アリシアちゃんは生きているわ!」
デュークと学園に入ると、リズが嬉々たる表情を浮かべながら僕らに近付いてきた。
僕はその言葉で地面に座り込んでしまった。
アリシアが生きていた…………。死んでいないということは分かってはいたが、ちゃんとこうして生きていることを確認できる安堵はべつものだ。
「どういうことだ?」
デュークはまだ疑心暗鬼のままリズを見ている。
「この世界にアリシアちゃんの存在を感じたのよ! ただ、魔力はなくなっていたみたいだし、……あれはアリシアちゃんの魔力じゃなかったわね。けど、絶対にあのウィリアムズ・アリシアの存在は感じたから間違いはないのよ」
段々独り言のようになっていくリズに僕は見上げながら「アリシアは本当に生きているんだよね?」と聞いた。
リズは僕を落ち着かせるように、優しい表情を浮かべる。
「ええ、彼女は間違いなく生きているわ」
どれだけその言葉を待っていただろう。
どこへ消えたかなどよりも、アリシアがこの世界にちゃんと存在したということの方が重要だ。
アリシアはどこでも地に足をついて生きていける力を持っている。だから、この世界で生きているだけでいい。
「良かった……。本当に良かった」
「なぜ前まで彼女の存在を探知できなかったんだ……」
「信じられないと思うけど、何らかの影響を受けて多分違う世界に行っていたのだと思う。けど、別次元に移すことのできる魔法なんてないから……」
「いや、信じるよ」
デュークは少し困惑しているリズに強い口調でそう言った。
その言葉がリズにとってなによりも嬉しいだろう。
僕はリズの表情が少し赤くなるのを見つめながら、アリシアのことを考えた。
アリシア、君が死ぬわけないよね。
僕を置いていったことは許さないけれど、死んでいないことが分かって心の底からホッとした。
「…………どこにいるんだろう」
「それが、アリシアちゃんの魔力を探知できないから正確な場所までは分からないのよね」
「いや、アリシアの存在を探知できただけでありがたい」
デュークの言うとおりだ。
魔力なしでアリシアの存在をこの世界に感じることができるなんて、尋常じゃない。
流石聖女としか言いようがない。やっぱり、キャザー・リズの力は本物だったのだ。
僕は初めて聖女の力というのを実感した。この力を失ってはいけないという国の考えは理解できる。
「アリシアはこの世界で今頃何してるんだろうな」
そう言って、デュークは僕に手を差し出してくれる。僕はその手を掴み、その場に立ち上がる。
「ライオンと戦っているかもね」
「そんなことが二度あってたまるか」
「そうだね」
僕はハハッと声を出して笑った。
ちゃんと笑ったのはいつぶりだろう。……アリシアが生きていると分かっただけで体の力が一気に抜けた。
「なんだか、デュークはアリシアが別の世界に行ったことを知っていたみたいな口ぶりだね。……もしかして、知ってたの?」
僕がジトッとデュークの方を睨むと、彼は口の端を少し上げる。
「さあな」
きっとこの意地悪王子はある程度察していたのだろう。
この男め……。アリシアを見つけたら、僕がデュークよりも先にアリシアとハグしよう。




