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「クシャナは責任感が強すぎるのよ。もっと楽に生きればいいのに」
自分の生きたいように生きるのが一番!
だからこそ、私は歴史に残る悪女になろうと毎日を懸命に生きているんだもの。
「『楽な道が良い道だとは限らない。その道を歩むものを否定はしないさ。多くの者は、簡単な道を選ぶ。それでいい。……だが、私にとってそれは美しい道ではない』ってクシャナは言ってたわ」
クシャナらしいわね……。
美しいか、否か。クシャナは困難な道の方が美しいのだと思ったのだ。
「クシャナが妖精に愛される理由が分かるわ」
私は果てしない先をぼんやりと眺めながら、口を開いた。
今、私がいる空間は妖精によって創り出された場所。私はこんな魔法を知らない。……リズさんですら、こんな魔法使えないだろう。
妖精を味方につけている森の女王――クシャナ。本当に興味深い人ね。
「今すぐ、クシャナのいる森へと私を飛ばして」
私はキイの方を真っ直ぐ見つめる。
「もちろんよ」
キイは微笑みながらそう答えた。
「あ、ねぇ」
今のうちにキイが答えられることを聞いておこうと思った。キイは首を傾げて私の言葉を待つ。
「クシャナが使っていたあの鎌。あれも妖精の力が施されているの?」
「ああ、あれね。あれは……ただの鎌よ。ただの鎌を振り回しているだけ」
キイのどこか遠い目で察した。
じゃあ、あの重くて速い一筋一筋は…………。ただ、クシャナという人間がバケモノだったということか。
妖精が引くぐらいの身体能力の持ち主って、怖すぎるでしょ。
私、そんな人を相手に戦っていたのね……。
マディ採取に行かなければ出会っていなかった人物。出会いというのはやはり奇妙で素敵なものね。
「出会うべくして出会った。こういう言葉は誰か特定の人に使うのだと思っていたのだけれど、きっと違うわね」
「違うの?」
「皆、出会うべくして出会ったのよ」
「アリシアはたまによく分からないことを言うね。……私は長く生きているけれど、出会わなければ良かったと思う人間はごまんといるわ」
「どんな出会いも人生の糧になるわ。そうでない人間は成長しないもの」
「だから、アリシア」
「出会う人と関わる人はまた別よ」
私は彼女の言葉を遮るようにそう答えた。
キイは少し固まり、私の言いたいことを理解できたのか口を閉ざした。
私は一呼吸置いてからキイに質問する。
「キイは私と出会えて良かった?」
「……全然、私は王位継承権を獲得するのに利用されただけだもの」
「利用される前に利用すればいいのよ」
「何を言って」
「私の役目は妖精をとってくることだけよ。その妖精が後は何をしようと私には関係ないわ」
キイは目を丸くして私を見る。
ヴィクターの命令にはもう従った。後はキイが王宮を爆破しようが何をしようが勝手だ。
「本当にこの女はたちが悪いわね」
キイはどこか嬉しそうに笑みをこぼした。
誉め言葉として受け取っておこう。
キイは私の顔の近くへと寄ってきて、額をくっつけた。唐突な彼女の動きに驚きつつも、私は動かずに彼女の言葉を聞いた。
「私はあの湖の中に封印されてたの。目的はどうであれ解放してくれたことには感謝してるわ。私はもう一度自由を知った。だから、アリシア、……私は貴女に出会えて良かったわ」
キイがそう言い終えた後に、体中に透明感のある綺麗な魔力が流れ込むのが分かった。
今まで感じたことのないぐらい神秘的な力を帯びた魔力だ。
体中に魔力が流れ込んだのと同時に私はゆっくりと目を瞑った。




