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私の質問に逆にキイが不思議そうな顔をする。
「アリシアはクシャナと会ったでしょ?」
「ええ」
キイの質問の意図が分からず、私はただ頷く。
「クシャナが動物と話せること知ってるでしょ?」
「ええ」
「変だと思ったことはないの?」
言われてみれば、この世界ならそんなこともあるだろうとあっさり受け入れていたが、どう考えても動物と会話なんておかしい。
魔法を使えない人間が動物と意思疎通ができるだなんて本来ならあり得ない。
「クシャナは妖精に愛されているんだよ。だから、妖精の力を借りることができる」
そう言われれば、確かに腑に落ちる。
「森の女王になれたのはそのおかげ……?」
私の言葉にキイがフフッと笑う。可愛らしい表情で笑うのだと思った。
「それだけなわけないでしょ。クシャナは実力もちゃんとある。あの人格と才が妖精から愛される要素だからね」
やっぱり彼女は強者だった。最初から分かってはいたけれど、キイがこれほどいうのだから間違いない。
私はクシャナに負けた。若くしてあの威厳があるのはそれだけ積み上げてきたものがある。
すぐにでもクシャナに会いたくなってきたわ。私はまだ彼女のことをなにも知らない。
「あの森には魔力の持つ者にでも見えない妖精というのが多く存在する。……クシャナの瞳にはその妖精らも全て映っているのよ。本当に類まれな人間だわ」
「クシャナは一体何者なの……」
魔力がないのに、妖精が見えるなんてあり得ない。
それにあの卓越した身体能力。人間的でない部分が多過ぎる。
混乱している私にキイは優しい声を発した。
「ただの妖精に愛された才ある少女よ」
「素敵な話ね」
羨ましいとも妬ましいとも思わなかった。ただ、その話を聞いて素敵だと思った。
一人の少女が妖精に愛され、森で鍛錬を積み、女王になった。綺麗な物語だ。けど、キイの表情はどこか寂しそうだった。
「……才とは不思議なもので、本人が望まなくとも手にしていることがあるわ。普通の人なら渇望するような才でも、持っている本人からしたら不要なものかもしれない。皮肉な世界よね」
「クシャナはちゃんと運命を全うしてるじゃない。その運命が嫌なら投げ出せばいいわ」
運命は元々決められているものだから、どうこうできるものではない。
けれど、自分の手で、足で、自分の人生を築き上げていくことはできる。
キイは私の発言に気を悪くしたのか、表情が険しくなった。
「アリシアが一番分かっているはずよ」
「何を?」
「投げ出せない運命があることを」
…………そんなのないわよ。
私は弱々しい声で心の中で呟いた。




