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「こっちの国に来るの、私なら手を貸せるよ」
キイの真っ直ぐな瞳に私は固まった。
そうだわ。……妖精になら、その力があるかもしれない。
「私をラヴァール国に連れて行けるの?」
「私を誰だと思ってるの? そんなの朝飯前よ」
考えてみれば、キイは今ラヴァール国にいる。その彼女がデュルキス国にいる私を別空間へと移動させることができた。
彼女が私をラヴァール国に連れてくることができるのも理解できる。
「ただ遠隔だとちょっと難しいのよね」
「どういうこと?」
「ラヴァール国の的確な場所へと連れてくることは難しいってこと……」
「死到林に落とされるかもしれないってこと?」
「そうならないように努力はするけど……」
ちょっと気まずそうに話すキイに私は「大丈夫」とはっきりと伝えた。
「ラヴァール国へ行けるだけで充分よ」
「…………ねぇ、一つお願いしてもいい?」
キイにお願いされるのは意外だった。
ラヴァール国へと連れてってくれるのなら、私に出来ることなら一つぐらい願いを聞いてもいいだろう。
借りを作るのも嫌だもの。
「何?」
「クシャナという少女の望みも叶えてやって」
私はキイの口からクシャナという名が出たことに驚いた。
どうしてキイがクシャナを知っているの? ……いや、知っていても不思議じゃない。
だって、クシャナは森の女王よ。妖精が彼女の存在を認知していないわけがない。
それに、あの森の神秘的な場所の存在もキイの存在となんだか似ていたもの。
今となって分かる。私がウィルおじさんと戦った場所には妖精の力が加わっていた。
「けど、今の私は……」
「どうしたの?」
「クシャナが必要としていたのは魔法の使える私であって、今の私は魔力がないもの」
魔力を回復させるにはかなりの時間を要する。……ジュリー様、私をまんまとハメたわね。
こんな罰聞いてないわよ。確かに五大貴族じゃなくなった私は魔法を使えてはダメなのだろうけれど、ここまで奪うことないじゃない。
「そうね……」
私が困った表情を浮かべているのを見つめながら、キイは深刻そうに呟いた。暫く沈黙が続いた後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「…………私の魔力をあげるわ」
私は驚きのあまり声が出なかった。目を見開きながら目の前で飛んでいる妖精を見つめる。
何を言ってるの……?
妖精の魔力をもらうなんて聞いたことがない。
可能ではあるのだろうけれど、妖精の魔力と人間の魔力は質が違う。魔力の大きさはきっと私の方が上回っていたのだろうけど、妖精の魔力は洗練されていて、とても綺麗なものだ。
人間が手にしていい魔力ではない。
ジャンクフードと高級料理ほど質に違いがある。
「ちょ、ちょっと待って」
「何を驚くの? 私の魔力があればクシャナの願いも叶えることができ」
「どうしてキイがそこまでするの?」
私はずっと疑問だったことを口にした。
クシャナは偉大だ。それはよく分かる。……けれど、キイがそこまでする義理は分からない。




