561
自由なアリシアだから、感情に従ってどこかへと行ったのだろうと思っていたが、どうやら本当にいなくなっているらしい。
事は思ったより深刻だった。
ジルの表情が昨日よりも険しくなっている。
…………こんなにも跡形もなく急にアリシアがいなくなるのは考えられない。というか、考えたこともなかった。
彼女が攫われるなど、ありえない。
事情を把握しているのに、何故か未だに信じることができないでいた。
祖母がアリシアに会ったのも、全ては祖母の計画通りだろう。一見、アリシアが全ての主犯者に思えるが、黒幕は祖母だ。
アリシアと会うために、きっと何か仕掛けたのだろう。
「アリシア、どこにいるんだろう」
学園の旧図書室で、ジルが俯きながら呟く。
探すことを諦めているわけではないが、疲労に覆われた表情に心が痛くなる。
「魔力ではアリアリの存在を感知できなかった、リズに頼んでアリアリの存在自体をこの世界にいるか確かめてもらったけど、いない。……そんなの信じられないけど。けど、もうこれじゃあお手上げだよ~!!……あ、ごめん」
メルはジルの表情がどんどん曇っていくのを察したのか、彼の方を見ながら申し訳なさそうな表情を浮かべた。
今、この部屋には俺たち三人しかいない。ジルは無理やり笑顔を作る。
「大丈夫、本当のことだから」
「…………アリアリがこの世界にいないってやっぱり変だよ」
メルは真剣な表情でそう呟いた。
それには俺も同感だ。この世にいないことを「死」ではなく、別空間に飛ばされたのだとすれば?
……いや、でも祖母にそんな技術はない。
「なんか、主の顔がどんどん険しくなっていってるよ」
「アリシアのことになると余裕がなくなるのは僕だけじゃないからね」
「…………今回は祖母は無関係だ」
「なんで断言できるんだよ」
ジルはすぐに俺に反論してくる。
祖母がアリシアを消したいのなら、こんな消し方はしないはず。……それに、アリシアを消すとは到底思えない。
魔法の技術や魔力面で言えば、アリシアの方が格上だ。
だとすれば、全く違う誰かこの事件に関わっている。
………………誰だ?
「俺たちは祖母にとらわれ過ぎていたかもしれない。これは全くの別事件だと考えた方が良さそうだ」
「けど、デュークのおばあちゃんは……」
「そうだよ。別件として話を進めた方がしっくりくる。今、ジュリー様がアリアリをわざわざ消す意味ってないじゃない。爵位剥奪だけで充分じゃない? その上、アリアリを攫うなんて、なんか腑に落ちないもん」
「確かに」
ジルはメルの言葉に納得したのか、反論しなくなった。
祖母の件は一旦置いておいて、ならば、アリシアが消えた理由はなんだ?




