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本当に国王が五大貴族の令嬢に制裁を加えて良かったのか……。
「いえ」
俺はそう答える以外なかった。
実際に、国王が直々アリシアのことを裁いていたら、極刑に違いない。
いくら五大貴族の令嬢と言えども、王宮爆破計画の主犯だとなれば救えない。どれだけ慈悲深くても、庇いきれない。
それに、一度アリシアは国外追放になっている。
だからこそ、祖母にこの事件の解決を一任するのが最善策だったのだろう。
ウィリアムズ・アリシアという存在を守るためにも。
国王がもう一度ウィリアムズ・アリシアを裁くのなら、極刑以外ありえないのだ。だからこそ、祖母に一任したのだろう。
どれだけ罪が重かろうと、命は助かる。
王宮爆破を試みた罪としては、爵位剥奪や魔力を奪うなどは甘すぎるのかもしれない。
「……………………私は母に逆らったことはない」
長い沈黙を破るかのように父は口を開いた。
「はい」
そのことは周知の事実だった。
だが、本人から改めてその話を聞くと、少し変な気持ちになる。ちゃんと父は自分の立ち位置を自覚している。
母の言いなりだったのかもしれないが、父はちゃんと国王としての威厳はある。
父は眉をひそめながら話し始めた。
「母は兄上が亡くなったあたりから、様子がおかしい。何があっても動揺するような母ではなかったのに、どこか気力を失っているように見える。母は兄上を恨んでいたのだ。それなのに……」
「意外と祖母は伯父上を恨んでいなかったのかもしれません」
本心だった。
祖母は心の底から伯父上を憎んでなどいなかった。もし、本当に嫌っているのであれば、王宮に伯父上と父上の大きな絵など飾っているはずがない。
「デューク、お前は私の母が嫌いだろう」
「……いえ」
俺の嘘をすぐに見抜いたのか、父はハハッと小さく笑う。
「母とアメリアはよく衝突していたからな……」
どこか懐かしむような口調で母の名が上がった。
母は素敵な人だった。強くて美しくて、他国に嫁いで誰一人味方がいないような状況でとても気高く生きていた。そして、自由だった。
母がデュルキス国に嫁いだ理由は……。
「デューク」
俺の考えごとを遮るかのように父は俺の名を呼んだ。反射的に俺は父と目を合わす。
「私の母は生涯孤独だ。誰もその孤独には寄り添ってやれない。……可哀想な人なのだ。私の父の心は亡き元王妃のところにあり、私の心は兄のところだった。彼女が愛した者はみんな彼女に愛を返さなかったのだ」
まるで自分のことを戒めるかのように父は話す。
「アリシアが祖母と接触したと聞いた時、どう思いましたか?」
「……彼女なら、何か変えてくれるかと思ったよ。アリシアには不思議な魅力がある。己の道を切り開く強さも、誰かの心に寄り添う優しさも……。それが知らず知らずのうちに誰かの心を救っているのだ。きっと、誰もが彼女の信念の美しさに触れたくなる。ウィリアムズ・アリシアを聖女として認定できたことは、私が国王として行った最も誇れる可決になるだろう。……デューク、絶対に彼女を手放すでないぞ」
強い瞳としっかりした口調に俺は頷いた。
父からのこの言葉はアリシアとの婚約を認めたと言っているように聞こえた。




