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家に帰ってきた。
またすぐに僕らは集まるのだろうけど、デュークはジュリーと会うために力を尽くしてくれるらしい。
シーカー・ジュリーと会うために僕ができることはなにもない。こればかりは、デュークに全て任せるしかない。
最後にデュークと離れる時に、「祖母に会いたいか?」と聞かれた。
デュークはいつにもまして真剣だった。きっと、僕にとってかなりの危険が伴うのだろう。
それでも僕は力強く「うん」と頷いた。
僕がアリシアの為に出来ることはそれぐらいだから。
ウィリアムズ家の図書室で僕はひたすら何か手がかりがないかと本を漁っていた。
いつも、切羽詰まるとここに来る。僕の逃げ場なのかもしれない。……人の家で自分にとって居心地の良い場所をつくれるとは思わなかった。
魔法についての本をひたすら読んだ。闇魔法、毒魔法……、アリシアの行方の手がかりは何一つない。
ただ分かったことと言えば、闇魔法と毒魔法の相性はとても悪い。何故か、光魔法と闇魔法の相性はいいのだ。
「変なの」
僕は小さな声でそう呟きながら、本を捲った。
必死になって活字を追っていると、「ジル」と僕を呼ぶ声が聞こえた。その声に反応して、僕は振り返る。
「……レベッカ? どうしてここに?」
まさか彼女がここに来るとは思わなかった。目を丸くしたまま、僕は彼女を見つめていた。
「少しお願いして、入らせてもらっちゃった」
「…………そうなんだ」
僕はなんて返せばいいのか分からなくて、ただ相槌を打つことしかできなかった。
彼女はそんな僕を察したのか、明るい声で話し始めた。
「ジルは凄いね。あの貧困村を誰よりも早く出て、ここに馴染んでいるのだもん」
「どういうこと?」
「私はずっとあの村を出たいと思っていたけれど、いざ外に出てみたら、全然この世界に適応できない自分がいたの。だからね、ジルがこの貴族社会に馴染むために血のにじむような努力をしたことは分かる。……私はまだまだ馴染めていないもの」
「あの村よりもここは天国みたいな場所だったからね」
「……本当に?」
レベッカは目に光を失ったかのような表情で小さく声を発した。
「…………そうは思わないの?」
「こんなにも美しい世界があったのかと、感動したよ。貴族の世界に触れるなんて思ったことなかったもん。だから、あまりにも煌びやかで夢の中にいるみたい。……でも私は生まれも育ちも貧困村。なんだか、いてはいけない世界にいるような気分になるの。貴族社会がいくらドロドロだったとしても、私にとってキラキラしていることには変わりない…………少しだけ、ほんの少しだけあの村が懐かしく思う時がある」
「……アリシアが来る前の、じっちゃんが良くする前の村の状態を知っていてそれを言っているの?」
僕もレベッカも貧困村に殺されかけている。特にレベッカはアリシアがいなければ本当に命を落としていただろう。
足を一本失っただけで済んでいるのはアリシアの処置のおかげだ。
「分かってるよ」
静かに彼女はそう言った。




