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「私はメルのこと好きよ」
リズがフッと笑みを浮かべる。メルはそれに反抗するように「私は嫌いだから」と眉間に皺を寄せる。
「……『聖女』に対して抗うのが、自分の力を使わないこと?」
「そういうことなのかもね」
リズの気持ちを尊重すべきなのかもしれない。
そう思った僕の表情を読み取ったのか、リズが「だけど」と言葉を付け足した。
「ちょっとだけ手を貸してあげる」
「え」
「私が聖女だという運命は変えられないから」
その清々しい表情に僕は思わず顔を綻ばせてしまう。
「やっぱりお人好しだね」
「それは嫌味?」
「……誉め言葉だよ」
アリシア、君が認めた女の子を僕もようやく認められるよ。
アリシアがリズのことをずっとライバル視してきた意味をようやく理解できた気がする。リズとアリシアでは格が違うとずっと思ってきたけれど、リズはずっとちゃんと「聖女」だった。
アリシアの考えにようやく追いつけたような気がする。
「それで、私は何をすればいいの?」
リズの言葉にデュークが口を開いた。
「アリシアの存在を少しも感じることができなかった。……リズの力を使って少しでも感じることができるか試してくれないか?」
「お安い御用よ」
彼女は満面の笑みで応えて、ゆっくりと目を瞑った。
その瞬間、その場に強い風が吹いた。リズの周りを眩しい光が覆う。
……なんだこれ。
今まで感じたことのないぐらい温かい光に眩暈がしそうだった。リズの力をこんなにも直接的に感じたのは初めてだった。
魅惑の魔法にかかる貴族たちの気持ちが分かる。これほどの大きな魔力に敵う者などそういない。
「凄いわね」
キャロルが感心するように言葉を発した。
僕はその言葉を聞いて、少しだけ悔しかった。キャロルが凄いと思うのはアリシアだけであってほしかった。
ただ、キャロルの口から思わず出たその言葉に僕も納得してしまうほど、キャザー・リズの力は並外れたものだった。
これが脅威となると判断した国の気持ちが分かる。
「これほど大きな力をコントロールできるものなんだね」
「リズの魔力は一度暴走したことがあるからこそ、学園が必死にコントロールできるようにさせたからな」
僕の言葉にデュークが答えてくれる。
「教える側も大変だね。自分より優れた者に対しての教育って……」
扱い方を分からない能力の対処は困難だ。聖女も聖女に対して接する者も、両者とも頭を抱えていたのだろう。
そう思えば、アリシアの気概は相当なものだ。
だって、未知なる力を持つ聖女の監視役をワクワクしながらしてたんだもん。あの役をできるのはアリシアしかいないよ。
僕は目の前で光っているキャザー・リズを見つめながら、アリシアを想っていた。




