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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「理論と感情が合わない葛藤が私たちを人間らしくさせているのかもしれないわね」

 随分と大人になったな、と思った。

 本来の彼女はそこまで脳内お花畑ではなかったのかもしれない。彼女が吹っ切れてから、ずっとリズは良い顔をしていると思う。

 このリズの言葉に関しては、メルも茶化したりしない。こういうところがメルの良い所なんだよね。

 キャザー・リズの存在を認めていないわけではない。完全に拒絶していたら、リズの力を借りようなんて発想にはならないし……。

「皆、自分の選択を正当化させようと必死なんだよ」

「その歳でそこまで分かっているなんて、流石ジル君ね」

「それ、褒めてる?」

「褒めてるに決まっているじゃない。ただ、もう少し子供っぽさあってもいいと思うけど」

「余計なお世話だよ」

 僕がそう言った後に、リズは暫く黙り込んだ。

 何を考えているのか分からない。彼女が今まで戦ってきた葛藤を僕らは深く知らない。ずっとその葛藤に対して自分を偽りながら「聖女」として役に徹していたのは彼女の強さだと思う。

「……私がね、この力を最大限に利用すればね、この国だけでなく、この世界を統べることができるのよ」

 自信過剰ではなく、本当にそうなのだと思った。

 キャザー・リズの聖女としての力はそれほど強いものなのだろう。だからこそ、扱い方を間違えれば世界は終わる。

 アリシアがリズの監視役になっていたのも理解できる。

「私が生まれた日、ラヴァール国の穀物が全滅したの」

 …………そういえば、アリシアから聞いたことある。ラヴァール国がキャザー・リズのことを狙っていると分かった時、そこの関連性について調べていた。

 ただ、その歴史をちゃんとリズも知っていたことに驚いた。優等生だな、と改めて自覚する。

「これに関して、まだ正確な因果関係は私も分かっていない。……考えたことある? 聖女って本当に聖女なのかどうか」

 リズは「聖女」に苦しめられてきたんだ……。贅沢な悩みかもしれないが、前にもリズが言っていた通り、望んで聖女になったわけではない。

「聖女は呪いでもあるのよ」

 リズは静かにそう言った。

 その言葉が、いかにリズが今までの人生の中で葛藤してきたかを表していた。

「皆、私の力を崇めるけれど、世界を滅ぼす悪魔だと考えたことはないのかしらって。聖女という概念がなければ、私のこの力を封じ込めるために、私を殺すって判断になっていたかもしれないじゃない。願って手に入れた力じゃないものに人生を左右させられるってなかなかきついものよ? 世界は私に優しくないの。……だからね、私は私の力を利用する者のいいなりになるものかって思っているのよ」

 意思の強いエメラルドグリーンの瞳をこれほどまでに魅力的だと思ったことはない。

 彼女はそう言い終えた後に、苦笑した。

「けど、ちゃんと学園でこうやって魔法の特訓をしているから感情と行動は矛盾しているんだけどね」

「人間は矛盾する生き物だから別に良いんじゃない。……私も今のリズの方が好きだけど、嫌いだもん」

 メルが珍しくちゃんとリズと会話している。

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