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来客を常に監視しているほど、ジュリーは暇ではないはず。
そう思い込んでおこう。今は自分の都合のいいように解釈するのが一番だ。
「じゃあさ、魔力をもたない私たちなら王宮に忍び込んでもジュリー様に気付かれることはないってことだよね」
レベッカは明るい声でそう言った。
……あ、確かにそうだ。
「気配を消すのって難しいぞ」
「それはそうだけどさ~~、けど、私もアリシアの役に立ちたいもん」
ネイトの言葉にレベッカは口を尖らせる。
アリシアの役に立ちたい、皆そう思っている。アリシアを待っている人たちが沢山いる。それが僕は自分のことのように嬉しかった。
ずっと非難の目を向けられていることに関して何も思わなかった。アリシアがそれを苦としていなければ、僕も別に気にすることはないと思っていた。
けど、自分の大好きな人がこんなにも慕われているって僕にとってこんなにも幸せなことなんだね。
「俺も力になりたいが、話を聞いているとジュリー様は俺らが太刀打ちできるような相手ではないだろう。玉砕覚悟で戦いに挑むのは今ではない」
ネイトのいうことは最もだ。
魔法の使えない僕らがジュリー様に体当たりしても、ただただ滑稽なだけだ。
「こういう時こそ、キャザー・リズ」
いつもと違うメルの雰囲気に僕は彼女の方を見た。
高くて甘い声じゃない時のメルの表情は腹黒く人間味を帯びている。
……僕、メルのこの顔好きなんだよね。普段は誰よりも幼く見えるのに、考えていることは計算高い。
「主、彼女を使わない手はないんじゃないですか~? 私情を挟まず、アリアリを見つけることだけを目的とするのなら、手段を選んでいる暇なんてない。この状況を打破できるのは、あの女だけかもしれない」
確かに、キャザー・リズには何も手がかりのない今の状態をひっくり返すことができる可能性がある。
さっきまで、高い声を上げて「アリアリ~~!」って叫んでいたメルとは大違いだ。
メルはじっと射貫くようにデュークの方を見る。主にそんな鋭い視線を向けていいのかと思いつつ、僕はメルの言葉を聞いていた。
「あの女に賭けてみるのはいかがですか?」
全員がデュークが口を開くのを待った。
妙な緊張感が流れる。利用できるものは全て利用する。
「……ああ、そうだな」
デュークは静かに頷いた。
キャザー・リズの本当の実力を僕は知らない。一体どれほどの魔力の持ち主なのか、どんな魔法を巧みに操るのかまだ把握していない。
僕の中ではアリシアが最強だと思っていたから、天賦の才能を授かったリズの実力がどんなものなのかちゃんと間近で見たことがない。
アリシアが行方不明になった状況を楽しめてきている自分がいた。




