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「いくらアリシアが死なないと言っても、僕らにとっては大問題だ」
「大問題というか、大事件だよ~~、愛しのアリアリ~~!!」
僕の言葉にメルが声を上げる。彼女のオーバーリアクションを見ていると、なんだか冷静になれる。
この場にいるメルとキャロルとレベッカとネイトに全ての事情を話した。デュークは口を挟むことなく、僕の話をただ聞いていた。
今、僕らは王宮の応接間にいる。相変わらず豪華な部屋だ。ウィリアムズ家の応接間も豪華だと思っていたけれど、王宮は比べものにならない。
いつも思うけど、僕がここにいるのが本当に不思議な光景だよね……。
ふかふかのソファに座りながら僕はそんなことを少し考えていた。
「デュークのおばあちゃん? だっけ。権力すごいね。アリシアの身分を奪っちゃうなんて……」
レベッカの言葉に「アリシアへの罰はまだかわいい方だと思うよ」と僕は答える。
かつて、ウィルおじさんはジュリーによって貧困村へと左遷された。目をくり抜かれた状態で……。
それに比べたら、アリシアの爵位剥奪なんて弱いものだ。
「デュークの力でどうにかならないのか?」
ネイトがデュークの方へと視線を向ける。
「そこに関して、俺はなにもできない」
デュークは首を横に振る。
デュークなら、何かしようと思えば、必ず何かできるはずだ。だが、アリシアがそれを望んでいない。アリシアはこの罰を喜んで受け入れていた。
だからこそ、そこに関してはアリシアの意志を尊重しなければならない。
……勝手に身分を戻したりしたら、絶対に怒られるもん。
アリシアの道を僕らが妨げるような形になるのは一番避けたい。
「アリシア様は本当に何も残してないのですか?」
キャロルは難しい表情を浮かべながら口を開いた。
「何もないんだ。……本当に何もない」
何か手がかりがあればと屋敷中くまなく探したが、何一つ残ってはいなかった。
「ジュリー様に何か直接聞けば分かるのではないのでしょうか?」
「人に会うことをしない。俺ですら会えるか分からない。……だから、あの日、アリシアと祖母が会ったことは奇跡に近い…………、まさか」
デュークは話しながら、何かに気付いたように目を見開いた。
「まさか、なに!?」
メルは身を乗り出してデュークの方を見る。誰もが、彼の次の言葉を待った。
「祖母はアリシアが屋敷に来たことを魔力で感じたのかもしれない」
「…………確かに、それは充分にありえます。毒を感じるのと同様、私たちは魔力も他の属性よりも感じやすいです」
キャロルはデュークの言葉に納得したように口を開く。
「完全に気配を消しても、毒属性だけは侵入者に気付く」
「毒属性って曲者だね」
「だからこそ、祖母を敵に回せない者が多かったのだろう」
アリシアに毒属性はとても珍しいとは聞いていた。キャロルを助けた時に、彼女が毒属性と聞いて喜んでいたのを思い出す。
「つまり、ジュリー様はアリシアと偶然出会ったんじゃなくて、出会うべくして出会ったというわけか」
ネイトの言葉に僕は少しだけ考えた。
僕らはどこまでジュリー様の手中で踊らされているのだろうか。
きっと、ここに僕らが集まっていることも察しているだろう。
敵陣に乗り込んで、そこで作戦会議をしていることに対して少し恐怖を抱き始めた。