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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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 ラヴァール国へ行く!

 それが次の私の行動よ。一度目は国外追放だったから……、二回目はデュルキス国五大貴族ウィリアムズ家の長女としてラヴァール国に歓迎してもらおうと思っていたけれど、ちゃっかり地位を失っちゃった!

 計画は変わっていくもの! ハプニングあってこそ!

 私は部屋でガッツポーズをとりながら、窓の外を眺めていた。

 …………ヘンリお兄様。

 屋敷の庭で剣の稽古をしているヘンリお兄様の姿が目に入った。部屋で休んでおけ、と言われたけれど……。

 ヘンリお兄様と話せるのも暫くないかもしれない。

 今、部屋を出たら、ロゼに「お嬢様~! ちゃんと休んでください!」って言われる未来が見える。

 転移魔法……? いや、けど思っているより疲労はたまっているのよね。

 ここはもう物理的に私が窓から飛び降りるしかない。

 二階から飛び降りるぐらいどうってことないと思うのだけれど、令嬢としてはダメよね……。まぁ、もう令嬢じゃないし、好きにさせてもらうわ。

 私は窓の縁に足を掛け、「ヘンリお兄様!」と言って、飛んだ。

「は!? アリシア!?」

 彼が私を見たのと同時に、私は地面に着地していた。ちゃんと着地する際に、足への負担がかからない魔法をかけておいた。転移魔法よりかは全然魔力を使わないから、魔力にも体力にもなんの影響もない。

 私が地面に足をつけた勢いで周りの草木が振動で揺れる。

 空から妹が飛んでくるとは全く想定しなかったのか、ヘンリお兄様は剣を片手に、ポカンと口を開けて私を見つめている。

 えらく野蛮な登場の仕方をした私に彼はまだ困惑しているようだった。

「え!?」

 彼はもう一度大きな声を出す。

 状況を掴めていないヘンリお兄様に、私は落ち着いた笑みを浮かべて話しかける。

「お疲れ様です。ヘンリお兄様が剣の稽古をしているなんて珍しいですね」

「あ、ああ。少し体を動かそうと思って」 

 戸惑いながらも彼は汗を拭って、会話をしてくれる。勢いでここにきたけれど、特に話すこともない。

 ただ最後にウィリアムズ家の屋敷で過ごすなら、言葉を交わしておきたいと思っただけで……。

 珍しく何も言葉が出てこないわ。アリシア、自ら飛び込んだのだから話題を提供しなさいよ。

 脳内で自分にツッコんでいると、ヘンリお兄様が話を続けてくれた。

「人には人の地獄があるというが……、アリシアの地獄は何だ?」

「私の地獄?」

「学園での嫌われ者、国外追放された罪人、恩師との永遠の別れ、爵位剥奪、……俺はアリシアみたいな人生を送っている人を他に知らない」

「他にいたら困ります」

 ヘンリお兄様は私の返答に「それはそうだ」と軽く笑う。

「アリシアは絶望とは無縁の女の子だからな」

「そうでもないですよ」

 私は静かに彼の言葉を訂正した。そして、ぼんやりと遠くを眺めながら言葉を付け加える。

「私が描いている『なりたい悪女像』を諦めた時に……」

 そこまで言いかけた時に、私は快晴の空に向かって小さな蝶が飛んでいくのが見えた。

 鳥が飛べる空の高さを蝶が飛べることはない。そんな蝶が、雲一つない空へと羽ばたいている姿をとても美しいと思った。

 私は蝶を見ながら、確かな声で呟いた。

「その時に私は、自分の意志に対して絶望します」

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