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「というわけで、私は今日からウィリアムズ家の者ではなくなります」
私は口角を上げて、清々しい表情で家族に向かってそう言った。
お父様もお母様もお兄様たちも目を丸くしている。ジルも私の家族の隣でキョトンとしている。
王宮から屋敷まで馬車で送ってもらい、心配した様子で出迎えた家族に対してとんでもないことを言っている。彼らはまだ状況が掴めていないのだろう。
そりゃそうよね。……そのうち、王宮からこの屋敷に手紙が来ると思うから事実だと分かるはず。
「ちょっと、待ってくれ、ルークの母君に会ったのか?」
まずはそこからよね、お父様。
いつも私に振り回されて、頭を抱えているお父様に私は心の中で謝った。
無事に帰ってくれて良かった、の表情から全員が、この子は一体何を言っているのだ? という表情に変わった。
「ええ、お会いしました。お年を召しても綺麗な方でしたよ」
「いや、そういうことを言っているのではなく……、アリシアが、あのルークの母君と? 父上を国外追放へと罰したあの方と? ……いやいや、そんなわけ。何かの聞き間違いだ……」
お父様は一人でぶつぶつと呟き始めた。
散々私の不可解な行動を見てきたはずなのに、未だに混乱している父を見るとなんだか愛おしくなった。父はとても私のことを大切に思っている。
「僕、仲間外れにされた?」
ジルが眉間に皺を寄せて私を見つめる。
そう思われても仕方がないわよね……。ジルを仲間外れにしたのではなく、今回の騒動にジルを巻き込むわけにはいかなかった。
けど、そんなこと言うと、またジルは怒るのだろう。
……言い訳はしないわ。
「そうよ。今回の件はジルには外れてもらったわ」
「どうして……!」
ジルは怒っているというより、悲しそうにそう声を上げた。
「適材適所という言葉があるでしょ? 魔力を持たない貴方は今回はお留守番だったの」
「けど、少しぐらい教えてくれたって良いじゃないか」
「教えたら、ジルは必ず参加したがるでしょ。……それに、大貴族の私が爵位剥奪よ? 平民のジルが罰せられるとなれば、命はなかったかもしれないわ。今回は流石に巻き込むわけにはいかなかったのよ」
「もっともらしいこと言っているだけで、僕は巻き込まれたかったよ。アリシアは僕の人生をひっかいただけかもしれないけれど、僕の人生は全てアリシアによって動かされているんだ」
何も教えてもらえなかったということが、これほどにまで辛いのだと彼は表情で私に訴えてくる。
ジルが私を人生の中心としていることは知っていた。まさかここまで彼を傷つけるとは思わなかった。私は目的を果たしたのと同時に、ジルを傷つけた。
物分かりが良い彼に勝手に甘えてしまっていたのかも……。
「ジル」
私は真っ直ぐジルを見つめながら、彼の名を呼んだ。




