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何も言わずに私はじっとその場に立っていた。
同じウィルおじさんを慕う者として、ジュリー様を抱きしめたくなった。……けど、私、一応重罪人だし。
ジュリー様は決して良い人だとは言えない。私のことを貶めようとしていたのも本心だろうから。
他人に慈悲などかけるタイプでは決してない。リズさんと正反対の立場にいる人だ。
……けれど、この部屋には優しさだけが感じられた。
「本当に私もウィルも、みんな皮肉な運命ね」
「運命に抗うことができないのなら、運命を愛することしかできない。だから、嘆いている暇などない。……ジュリー様もそうでしょ?」
彼女は一呼吸置いた後に、口を開いた。
「私は嘆かないけれど、運命を憎んだ女よ」
「貴女の生き方の方がずっと羨ましいわ」
「私の生き方?」
私は自分の生き方が傍からどう見えているのか、分かっていない。客観的にみたとしても、どうしても主観が入る。
だからこそ、ジュリー様の目に私はどう映っていたのか明確には理解していない。
「まるで獅子ね」
「獅子……?」
「お城で佇むプリンセスなんかじゃない。荒野を駆け巡る獅子よ。…………けど、小さな花を守る優しさを持っているわ」
やっぱり、私はジュリー様を嫌いになることはない。
そう強く思った。彼女が私のことを嫌いだとしても、ちゃんと評価してくれている。それが、何よりも嬉しかった。
私は彼女の背中を見つめながら、丁寧にお辞儀をした。
「…………それで、知りたいことは知れた?」
その言葉と同時に私は顔を上げる。
王宮爆破計画を企てた主犯者として、私は今から罰せられる。
「はい、とても。……どんな罰でも受けます」
「…………本当にとんでもない事件を起こしてくれたわね。……そして、それを一瞬でおさめた魔力にも驚くわ。……とんでもない悪女の所業ね」
思わず心の中でガッツポーズをしてしまう。
やったわ!! 聞いた? 悪女ですって!
私はついに国のお墨付き悪女になったのよ。……私ってば、本当に悪女の才能がありすぎちゃうわ。
「とりあえず、一晩は牢に閉じ込めておくわ。こんな大騒ぎを起したのだから、少しぐらいは苦しみなさい」
「喜んで」
私は嫌悪一つ見せず、笑顔でそう言った。
牢に閉じ込められることは別に苦ではない。ラヴァール国に最初国外追放された時も牢に閉じ込められていた。
「連れて行きなさい」
彼女は私に背を向けたまま、私の斜め後ろに立っていた衛兵に声を掛けた。
衛兵は「「ハッ」」と返事をして、また私の腕を掴んだ。
もうどこにも行かないのに……。
けど、これぐらいしておかないと、規律が乱れる。しょうがない、掴まれておこう。どうせなら、極悪人の表情でこの部屋を出て行こうかしら。悪人顔選手権のつもりで……。
私はそのまま、部屋から出て行かされる。ジュリー様はじっとロアナ村を見つめたままだった。
部屋を出る瞬間、私は顔だけジュリー様の方へと向けた。彼女がこっちを見ることは決してない。背中で全てを語っているように思えた。
「貴女に寄り添っている孤独がどうか温かいものでありますように」
最後にそう呟いて、私は部屋を後にした。
ジュリー様が私の言葉をどう受け取ったのかは分からない。表情も見えなかったし、言葉も返されなかった。
馬鹿な小娘だと思われたままでいい。私はジュリー様と対面できたのだから……。
よし! 今から、少しの牢獄生活楽しむわよ!




